第15話:盲目の羊

仕事帰りにドラッグストアに寄ると、トイレットペーパーが安かった。


しかも、いつもよりちょっと質が良いやつが、特売で。


見たら最後、買うしかない。

とはいえ、12ロール×2パックはなかなかのボリュームだ。


両脇に抱えて、他にもレジ袋を左右にひとつずつ。両腕、完全にふさがる。


他の方はどうかは知らないが、俺はもういっぱいいっぱいだ。


そういうときに限って、外に出たら雨が降ってきた。


ポツ、ポツ、じゃなくてもう少し急ぎ目。小走りする人もちらほら見える。


こっちは傘もなく、あってもさせないから、仕方なくフードを引っかぶって、やや早足。


家まで10分。耐えろ、俺。本降り前に急いで帰ろう。


そんなときだった。

後ろから、シャーッというタイヤの音。


振り向く余裕はないけど、横に並んだ自転車の二人組の存在にはすぐ気づいた。


「すみません、ちょっといいですか」


声がした瞬間、わかってしまった。


ああ、そういう感じか、と。


案の定、声の主である自転車に乗った二人組は近づいてきて、間を置かずに言った。


「神を、信じますか?」


思わず顔をしかめた。


この状況を見ても、それが最初に言うことか?


自分の都合だけじゃなくて、こっちの手元でも足元でも、空模様でも見てくれよと心の中でつぶやく。


「やっぱか・・・仮に興味があったり信じてたとしても、今は話聞かねーよ。見てわかるだろ?」


短くそう言って一瞥し、俺は歩き出した。


後ろからの声は聞こえなかった。


帰り道、フードの中で息がこもる。


なんとか荷物も落とさず、足早に角を曲がったところで、ふと声が漏れた。


「盲目の羊って・・・どっちがだよ・・・」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る