第12話:先に行く
「わしが、先に行くとしよう」
老人は穏やかに言った。
「もう長くはない。年寄りが先になるのは、当然のことだ。おまえたちは・・・生きろ」
その場にいた若者たちは、それぞれの表情で応えた。
目に涙を浮かべ、「そんなこと言わないでください」と誰かが言った。
肩を震わせる者、黙ってうなずく者。
まるで用意されていた台詞のように、誰もがその場でふさわしい感情を演じているようだった。
そして、老人はゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
そのまま、二度と開かなかった。
満足そうな顔をした最期だった。
一同は静まり返った。
誰かがすすり泣き、誰かが肩を抱いた。
「立派な最期だった」と呟いた者もいた。
時が流れた。
彼らは散っていった。
事故、病、失踪・・・
気づけば、誰一人として、あの老人の年齢にすら届かずに死んだ。
「先に行く」と言った老人は、結果として、誰よりも長く生きたのだった。
順番などはなかった。
あの日の言葉、あのやりとりはなんだったのか。
今となっては、確かめる術もない。
けれど、確かなことがひとつある。
あれは、なんて無意味な会話だったのだろう。
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