第11話:ゆるぎない揺らぎ

部屋には、本棚が三つある。

どれもぎっしりと詰まっていて、棚の板が少ししなっている。

また、棚に入らない本は積んで置いてある。


本だけじゃない。


部屋には、こだわりの家具が並んでいる。

木目の美しいテーブル。革のソファ。しっくりくる椅子。


クローゼットを開ければ、お気に入りの服たちが並んでいる。

高価なわけじゃないけど、自分に似合うと思えたもの。思い出のあるもの。

靴もそうだ。手入れされた革靴。すり減ったスニーカー。どれも大事だ。


どれも時間をかけて少しずつ集めた。気に入ったものばかりだ。


部屋をぐるりと見渡して、男は満足げにうなずいた。

好きなものだけで囲まれたこの空間は、どこか自分の分身のようだった。


でもふと、思う。


「・・・死んだら、持っていけないんだよな」


その一言が、部屋の空気を少しだけ変えた。


家具も服も靴も、ここにしか存在できない。

この部屋にある限り、自分と一緒にはいけない。


虚しさを感じながら、男は本棚に再び目を向ける。


積み上げられた本、並んだ背表紙。読んでないものや読みかけのものも多い。

これらもまた、例外ではない。


「・・・これも、持っていけないか」


そう呟いて、男はしばらく本棚を眺めた。


そして少しだけ笑って、一冊の本を手に取る。


「・・・せめて、少しでも持っていけるように」


ページをめくる音が、静かな部屋にやさしく響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る