第4話:階段

人生は階段のようなものだ。

そう教えられてきた。もしくはそういうものだと思い込んでいた。


そう信じていたし、誰も疑っていなかった。


努力すれば、一段ずつ、上へとのぼっていける。

ときに膝をついても、また登ればいい。


年齢という観点からもそうだ。

歳を重ねること、人生を歩むことも、階段を一段ずつのぼっていくことのように言われる。


「三十にして立つ」とか、「四十にして惑わず」とか。

まるで、年齢という段に合わせた、があるかのように。


しかし、ある日、男は気づいた。


「階段なら、降りてもよくないか?」


登るのがつらかった。

努力は報われないこともあったし、膝はもうガクガクだった。

なのに前にいる誰かは、振り向きもせずにひょいひょい登っていく。


階段を見下ろす。

風が吹いた。


ずっと上だけを見ていて、気づかなかった。

下には光があった。空があった。広がりがあった。


一歩、降りてみた。


少し、楽だった。


「・・・アリなんじゃないか?」


そのときだった。


空が揺れた。

地がざわめいた。

そして、声が響いた。


「また気づきやがったな・・・!!」


重く、古びた声。

どこからともなく、太い腕が現れ、

階段を一段、バーン!と叩き折った。


ドォン!

ドォン!

ドォン!


次々と階段が破壊されていく。


男は呆然と立ち尽くし、崩れ行く階段とともに落ちていった。


すべてが崩れた。


しばらくして、壊れた階段の残骸を見て、あのがぽつりと呟く。


「・・・また失敗か。どうしても、気づくやつが出てくる・・・」

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