5-4 つかの間の休息

夏の大会を控えた練習は大詰めを迎えていて、部員たちの動きにも自然と熱がこもる。


その中で、的に集中するユイとリョウの姿は、どこか柔らかく、心地よい空気を纏っていた。

弓を引くユイの横で、リョウが静かにアドバイスを送る。

ふと目が合うと、ふたりは小さく微笑み合った。


その様子を少し離れた場所から見ていたエミリとケイタが、目を合わせてにやりとする。


「……なぁ、エミリ。あいつら、なんかあったな」


「だよね。あの目線の交わし方、絶対なんかあるって」


ふたりとも口には出さないけれど、どこか嬉しそうに笑っていた。



練習が終わり、汗を拭いながら道場裏の自販機で水分補給をしていたユイとリョウ。

日差しはやや傾き始め、道着姿のまま、ふたりは並んでベンチに腰を下ろしていた。


カチッ、と缶のふたを開ける音がふたりの間で重なった。


「今日も、お疲れさまでした」


「うん、リョウくんこそ。……アドバイス、すごく分かりやすかったよ」


「それはよかったです。ユイさんのフォーム、きれいに戻ってきてるよ」


並んで座る距離が、以前より自然に近く感じられる。

そんなささやかな変化が、ユイには嬉しかった。


けれど、そのとき――


ぐらり、と視界が大きく傾いた。


「……っ」


ユイの体が急にふらつき、缶を落としそうになった。

そして、次の瞬間――リョウの肩にもたれかかっていた。


「……ご、ごめん!」


反射的に身を離そうとするユイ。

けれど、ほんの一瞬だけ感じた、肩越しの温もりが名残惜しくて――


(……このまま、ちょっとだけ……)


そんな気持ちが心の中にふわっと浮かんできた。


「ユイさん」


リョウが、そっとユイの手を取る。

その手は少しだけ震えていたけれど、あたたかかった。


「……肩、寄りかかってていいですよ」


そう言う声は少し照れていて、耳元まで赤くなっていた。


ユイは目を伏せながら、小さく笑った。


「……ほんとに、甘えちゃうよ?」


リョウの表情が、一瞬だけ強張る。

けれど、すぐに優しく、静かに頷いた。


「……うん、いいよ」


その声の奥に――なにかを思い出しそうな、わずかな“揺らぎ”があった。

リョウのまなざしが、どこか遠くを見つめるように揺れる。


(……あれ、この感じ……)


けれど、リョウ自身も、その記憶の正体には気づけないまま。


ユイは彼の肩にもう一度そっと寄りかかる。

微熱のように、胸の奥がじんわりとあたたかい。


(このまま……時間が止まればいいのに)


風がそよぎ、木々の間から差し込む午後の光が、ふたりの輪郭を優しく照らしている。

――ユイの胸元にかかるペンダントは、静かに呼応し影を落としいた。何かに反応するように、じっとりと息を潜めている。

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