5-3 やっと、繋がる気持ち
合宿と夏休みを終え、まばらになった部活動の喧騒が風に流れている。
ユイは、ペンダントの感触を確かめるように、胸元をそっと握りしめていた。
リョウと過ごした時間――大会前の練習、コズミックランド、そして帰りの電車。
どれも確かに「幸せ」と呼べるものだった。
けれど、それでも胸の奥に引っかかっている言葉がある。
(前は、言えなかった)
あのとき、文化祭の帰り。
勇気を振り絞ったけど、すれ違って、届かなくて。
だからこそ、今――この世界で、やっと届いた未来の中で。
もう、怖がらない。
⸻
リョウはユイの前に立っていた。
部活終わりの帰り道、偶然二人きりになったのは、運命だったのかもしれない。
ユイは一歩、リョウに近づく。
「ねえ、リョウくん」
その声は、ほんの少しだけ震えていた。
けれど、もう視線は逸らさなかった。
「……あのね、わたし――」
言葉が自然にこぼれる。
「リョウくんのこと、好きだよ」
時間が、ゆっくりと流れた。
リョウは一瞬驚いたように目を見開き、そして、呼吸を整えるように小さく息を吐いた。
「……僕も、ユイさんのこと、大切に思ってます」
まっすぐな声だった。
淡い夕暮れの光に包まれて、ユイの目から涙がこぼれる。
「……そっか、そっか……よかった……」
思わず声が漏れてしまう。
溜めていたものが、すべて流れ出すように。
「やっと……ちゃんと、届いたんだ」
ユイの頬を、涙が伝っていく。
言葉にならない感情が込み上げて、呼吸さえも不規則になっていた。
リョウは、その様子に少し慌てたように手を動かす。
「ユイさん……その、泣かないで……」
おそるおそる、けれど覚悟を決めたように、そっとユイの頭に手を置く。
軽く、優しく――ぽんぽん、と撫でた。
「……ちゃんと、届いてますから」
それでもユイの肩が震えるのを見て、リョウは迷いながらも一歩踏み出し、
もう一方の手で彼女の背に腕を回した。
「大丈夫ですよ。僕はここにいます」
抱き寄せたその腕に、ユイの体温がすうっと伝わってくる。
ユイは小さく頷いた。
涙が止まらないまま、リョウの胸元に額を預けた。
ずっと夢に見た光景。やっとたどり着けた、温もり。
⸻
ほんの数秒。
ふたりの間に穏やかな沈黙が流れたとき――
ユイの胸元で、ペンダントが微かに光を放ち歪んだ。
(え……?)
一瞬の違和感に、ユイはそっと手をあてた。
でもリョウは気づいていない様子で、ユイの顔を優しく見つめていた。
――まるで、誰かに祝福されているかのように。
けれど、どこかに“違う気配”も、ほんの少しだけ混じっていた。
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