第1話:溢れ出た元気を掬う
一人にしては少し広い空間。机と椅子が
黒板が無い後ろ側、白い木製の引き戸を開いて教室に立ち入る。コトコトと
窓越しから聞こえる
電気をつけ、
目を
「おーはようッ
「うおぁっ!? おいバカ、背中叩くの強すぎなんだよアホ」
「あ、二回も悪口言ったね。罰としてこちょこちょしまーす」
「おい、なにしてっ、あっははっ!! おいやめろって!!」
コイツは
「フン、今日の所はこれくらいで勘弁してやろう。またくすぐられたくなったら悪口でも行ってみるといいさッ」
「お前朝からテンション高すぎ、こっちは眠いんだわ」
「テンション高杉、ここに参上ッ!!」
「うるさいから黙っとけ」
「あ、もう一回いっとく?」
「ご、ごめんごめんっ!!」
こうして朝からテンションの高い高杉だけれど、コイツと話しているこの時間はそこそこ楽しくて好きだ。高杉から
「んじゃ、朝練行ってくるから。お前もテニス一緒にやるか?」
「無理無理、部活入っても続けられるほど金ないから。ラケット高いし」
「いや、ラケット自体は最初に買ったヤツ大切に使えばそうそう
「それがたけぇんだよ」
そう。それが高いのだ。
前に聞いたけれどガットの
「僕のお
「親から出してもらえないのか?」
「いいよ、悪いし。それに俺は帰宅部のままでも満足してるから大丈夫だよ」
「そっか~、まあ気が向いたらいつでも来いよ!!
そう言って走り去っていく高杉。
「じゃあなっ!! また三十分後!!」
「おう、頑張ってなー!」
春に高校に入学してはや
じりじりと
だからこそ、僕は皆よりも少しだけ学校に早く着く。家のクーラーは小さい頃からつけていない。そう言う
でもやっぱり眠いから、学校に着いたら
「でも、今日は体育だし。ジャージに着替えて
朝は特に
さっと着替えを済ませて、制服を
これが一番どの体の部位にとっても負担が少ない。
ふと目を覚ました時、教室には
あぁ、もう皆着ている頃か。
「おはよっ!
「うわっ
いつもは
「うわっとはなんだ失礼な~!」
「いやごめんごめん、けど顔を上げたら目の前に顔あったら
「ふふ、確かにねっ。いつ起きるのかな~ってずっと
「こわっ」
「あっ、やばー!」
「どうしたの?」
「
「あー、いいよ」
シャー
「本当にありがとっ!! お
「いや、いいって……」
「あれ、
「う、うるさいな。ほら、友達が呼んでるよ」
「ゆずはー!! おっはよー!!」
「おはよーっ!! それじゃあねん、少年!!」
「同い年ですけど」
なんともありきたりなツッコミをした後に、さっきまで
誰も見ていないだろうに、ひとりで
「おう、ジャージに着替えたんだな。テニス部入る気になったか?」
「ならねぇって、楽しそうではあるけどさ」
「見る目あるやん、まあそれは良いとして
「
「いや朝から数学は
「あー、いいけ……あっ」
「ん?」
筆箱の中身を確認するも、残っているシャーペンは一本だけ。俺の使う分しか残っていない。
「ごめん、
「
「いいってことよ。この
「そうだな、消しゴムで消しちゃわない様に気を付けないと」
どうでも良い会話をしていると、前の扉がガラガラと開いた。その瞬間学校の始まりを知らせるチャイムが
スタスタ
「ほーいおはよう、それじゃあ席着け~」
「そんじゃまた後でな!」
自分の席に戻って行く高杉を見送って、朝礼が始まったのを耳から反対の耳に流しながら筆箱の中身を見つめる。
少し
「おい名倉、聞いてんのか~?」
「えっ!? あ、はい、全部聞いてました!!」
「聞いてたら今日の欠席確認はもうとっくに済んでるはずなんだけどなぁ~?」
やべ。
「すいませんっ、全部聞いてませんでした!!」
「おいっ!? まあいい、さっさと報告してくれ」
教室を見渡して、今日は誰も欠席が居ない事を確認する。
いや、これなら僕要らないでしょ。
まあそれはそうと聞いて無かった僕が悪いんだけど。
「ふふ、怒られちゃったね?」
「仕方ない。そういう日もあるよ」
「それ、当事者が言うセリフじゃないからねっ!?」
小清水さんの向ける笑顔が、僕を無性に元気にさせてくれる。
なぜだろう。だけど、とても心地の良い感覚だ。
いつもなら少し煩わしい筈のセミの鳴き声すらも、今は僕をエモーショナルな気持ちにさせる。
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