解像度高めな主観ファンタジー

お話自体は、よくある(言葉遣いが気持ち悪い系)チートファンタジーですが、第二章第21話の後で番外編が語られるまで主人公の主観で話が進んでいたこともあって、そこまでは主人公が知っていることしか読者には分からない展開でした。

ただ、無能と自虐する主人公の無能さがやけに高解像度で描かれていて、実は自己肯定感が低いだけの有能なんて可能性を踏み潰すように、3万円強の四捨五入を4万円と言ってしまう計算力の無さや、そんな無能を非採算部門で10年以上養ってきた会社や同僚に何の感謝も無く退職できる想像力や感受性の無さが定期的に語られる様子に、作者の身近にモデルがいそうな戦慄を覚えました。

断片的な背景描写によれば、本人が気付いていないだけで、それなりに幸せな人生を歩んできた筈ですし、今は冒険者としても労働価値以上に周囲から大事にされていると思うので、幸せな日常を過ごして来た事実を自覚した主人公が何を想うのか、今から楽しみです。

さて、高解像度な描写をもう一つ挙げるなら、ステータスやスキルの扱いで、よくある不自然さを上手くカバーする作者の細やかさを感じてください。

お勧めです。