第4話 謎の少女
海賊の雷の魔導士はフユの水の剣を受け止めると同時に電流を流して攻撃してくる。
水を通って雷が手に触れて痺れてしまいまともに剣も振るえなくなってしまう。
「くっ……!」
「水は相性が悪いか!それじゃあこれで最後だ!!」
雷の魔導士は巨大な電気玉を作り出してそれをフユに向かって放つ。
周りにはまだ沢山の乗客が居る……これを避けるわけにはいかない。
集中力を高めて一度水魔法で作った剣を解く。水が足元に落ちて足元が水浸しになる。
フユの魔法はただの水の剣を作る魔法じゃない。
そんなことも知らない雷の魔導士は勝ちを確信したかのように叫ぶ。
「血迷ったか!!」
しかしそんな煽りにフユは乗らない。
「俺は|創(つく)る」
「あ?」
「お前の攻撃を防ぐ巨大な水の障壁を!!」
その次の瞬間、フユの足元の水溜まりが噴水の様に体積を大きくする。
噴水の様に噴いた水は分厚く、雷を貫通させないほどだった。
フユの完璧な|創(・)|造(・)力により、水の障壁は電気玉を受け止めきる事に成功した。
その光景をあり得ないモノを見る目で見つめる雷の魔導士と海賊達。
「水で電撃を防いだだと……!」
「まだ依頼が終わってないんだ。
客船の護衛の依頼をクリアして俺達のギルドはここから始まるんだよッ!!」
勢いづくと水の剣を空中に出現させて、それら全てを的確に海賊達へぶつける。
水なので身体が切れたりしないが作られた水剣の質量は重くなっていて、ぶつけられるだけでも大きな石を投げられるくらいの衝撃で気を失ってしまう程の威力だった。
まだ辛うじて意識を失わなかった雷の魔導士はフユの魔法を見て驚愕しながらつぶやく。
「ガキのくせに魔法は一貯前気取ってんじゃねーぞ!!」
それでもやがて雷の魔導士もその場に居た海賊達と共に全員倒れて動かなくなった。
フユ一人でエントランスを支配していた海賊を壊滅させることに成功する。
(さて……後はあの女の子だが……どこへ行ったんだ?)
フユは天奈の魔力を辿ってみるが、魔力は不思議と追えなかった。
雷を受けた後遺症がまだ残っていて、痺れが集中力を狂わせているのだとフユは考える。
「そういえば……もう夜か……」
すっかり暗くなった外を見ながら他に船の中にまだ海賊が残っていないか確認するために歩き出したその時だった!!
「フユ様~!!」
空で様子を窺うように指示していたカラスのラッピーがエントランスの窓を割り、中に入ってくる。
フユは拘束されていた船員を解放しつつラッピーの話を聞く。
「……何があった?」
「この船……海賊を倒したのに全然元の海道へ戻らない!」
「船長は?」
「それが……操縦する場所にまだ海賊が数人いました!」
「それを止めないとダメか……てことはアイツボスじゃないのか……?ラッピーこのまま俺をそこまで運べるか?」
カラスのラッピーは人ほどのサイズはない。
それでも人一人を運ぶくらいの魔力を持っている。
翼に魔力を集中させると魔力の光に包まれて強化される。
本来人を運ぶことが出来ないカラスでも容易に運ぶことが出来るようになるがそれも独りが限界。
さらにラッピーの魔力は少なくて長い間、人を乗せて飛ぶことが出来ない。
これは時間との勝負だった。
急いで上空へ移動する、空からだと船の異常な動きがよくわかる。
客船だというのに凄まじい速度で前進している。
空から並走するようにユキが頑張ってくれているがこのままじゃ追いつけない。
フユは海賊の仲間を倒したことがバレてしまったんじゃないかと考えた。
何故なら速度が全然落ちないからだ。
空から移動できる選択肢が頭の中にあったからちょうど良くそれを使った結果が間違いだった。
当然ラッピーのせいではない、ロビーから操縦席への場所も分からずに彷徨うよりはこっちのが確実だと考えた自分も正しかったはず。
元々、ここからその操縦席までの距離があるのにも関わらずすぐに情報が行ったことの方がおかしい。
誰がかこの情報を漏らした可能性を考え、フユの脳裏には少女の顔が思い描かれる。
可能性があるのはあの子だけ……だが、本当にそんなことをする子なんだろうか?
そんな考えをめぐらせていたその時だった!!
ドォォォォォオオオオオオオオオオンッ!!
操縦席の方から怪しい男が飛び出してくる。
爆発と共に海に投げ出された。
「まさか船長か!!」
一体中で何が起こっているのか凝視して見る。
「うぅ……フユ様、限界だよ~!!」
「もう少し耐えてくれラッピー後で光るものなんでも買ってやる」
「カァー!!!!!!!」
大好きな光るものを上げると伝えると途端にやる気を出した。
そんなカラスのラッピーが頑張っている中、操縦席を見てみるとそこには先程の女の子があたふたとして手や足をバタバタさせていた。
「わっ!?私を襲って来た変なおじさんは倒したけど……こ、これどうやって止めるのーーーー!!」
「お馬鹿!焦らないの……こうなったら――」
天奈の叫び声ともう一人、少女の声が操縦室から聞こえてくる。
もう既に客船は近くの街へ座礁する寸前だった。
このままだと街の港が半壊する。
被害は避けられないかもしれない……せめて少しでも減らす方へと考えをシフトした。
「ラッピー俺を海へ落とせ」
「えー!?まさか落としたから光るもの上げないよとか無しだよ?」
「分かってるから早く!!」
「カラス使いが荒いよぉ~じゃあいってらっしゃい!」
「ああ、お前は一旦、戻っててくれ」
ラッピーがフユを離すと、カラスの姿はポンッと消えた。
従魔召喚の魔法を解いた。
海の中は荒々しい動きをする客船のせいで近くに生き物がおらず、すっかり夜なだけあって真っ暗で静かだった。
フユは創造した。
海の中へ溶け込んで自由に移動できる自分を……。
水の魔法を司る彼にとって創造力は最大の武器である。
身体が水のように液状に変化すると海を魚よりも早く移動して客船の正面まで辿り着いた。
海から顔を出すとフユの目の前には客船、そして後ろには港がある。
フユは背後を一瞬だけ確認して砂浜を見つけた。そこには誰もいないがその近くには他の船が置いてある。
このままだとその船にぶつかって大事故に……。
「止まれええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!」
フユは吠える。
水の動きを……砂浜へ流れるような軌道に変える。
しかし船は燃料を消費して動いているのでそもそも流れに逆らうのは容易。
エンジンのパワーを相手に水だけではどうしても太刀打ちできない。
そのまま港へ突っ込んでしまう……フユがそう覚悟した時だった。
突然、何の前触れもなく船は軌道を変えて砂浜へ座礁した。安全に人を誰一人巻き込まずに……。
「あの子がやったのか……?でもこんな大きな船を操縦なんてできないよな。何だこの違和感は……?」
助かったというのにフユは不気味な感覚を覚えていた
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