第2話 少年との出会い


「またのお越しをお待ちしております~」


 私は近くの雑貨屋で大切な指輪を売りました。

 

 とてもとても大切なものですが、今は生きるために必要な荷物と大切なパートナーイズナを取り返すために必要なのです……!


(くっ……初めての旅だからと調子に乗って豪華客船に乗ってしまった自分が憎いぃぃ!!)


 怪我もしていないのに目から大粒の涙が溢れながら|お金(ジェム)を握りしめる。


「アンタなんで泣いてるんだ?」


 するとそんな私を同い年くらいの男の子が心配してか声を掛けてきました。

 

 私は生涯でまともに話したことは師匠と客船に乗るためのチケットを買う時とさっきの雑貨の3人だけ。


 頭の中が真っ白になり5秒くらい無言の時間が続く。

 

「だ、誰ですか!?」


「通りすがりの魔導士フユだ!」


 フユと名乗る彼は水色の短い髪と緑の瞳を持つ整った顔立ちの少年でした。


 話しやすそうな人なのかちょっとだけ安心する。

 

「大丈夫か?」

 

「だいじょうぶでずぅ……!!」

 

「……そうは見えないぞ。助けてやりたいが、俺も急いでいてな」


「はぁ……」


「ほら見えるかあの船」


「あー……おや?」


 フユさんが指を差しているのは既に港を離れて結構離れて小さくなってしまった件の豪華客船でした。


 まさかこの人も船に用があるのでしょうか……まさか私と同じように誰かにお財布を盗まれた!?

 

「実はギルドの依頼であの船に乗ってる依頼主の護衛をしてたんだ」


「へ?もう行っちゃいましたよ?」


「そうなんだよ!」


「……………………」


 この人には頼らない方が良さそうですね。


 私はそう判断した。


 とりあえずこのお金を握りしめてすぐに乗れそうな船を出してもらいましょう。

 

 大切なものを売り払ってしまいましたから……もちろんすぐに取り戻します。


 それにはまず鞄を取り返さないと!!


 しかし分かっていた事なのですが追うために船を借りても多分間に合いません。


 これからどうするか悩んでいたまさにその時、空から妙な気配を感じる。

 

 魔力……それも大きいな獣のような形の……。

 

 頭上に浮かぶ太陽の輝きをものともせず、私は空を見上げます。


 太陽を見つめているとだんだん黒い大きな何かがこちらに向かって来ているのが見えてきます。


「フユさん伏せてください!空から!!」

 

「あぁ……大丈夫だ」

 

「え?」


 フユさんはそう言うと空から向かって落ちてくる何かを腕に乗せます。

 

 それは漆黒のカラスでした。


 あれ?先ほどまで巨大な獣の魔力を感じたのですが……。


 一人の少年の腕に乗るサイズのカラスにそんな魔力が宿っているのでしょうか?

 

 しかし今はそれほど膨大な魔力を感じない、可愛らしい小さなカラスです。


 伝書鳩ならぬ伝書烏でしょうか?


 いえ、しかし足に何も付けていません。何かを持ってきた素振りもありませんし、不思議だなと考えて居たその時、フユさんのカラスが突然鳴きました。


「カ~!!」


「は?船は今そんなことになってるのかよ!まずいな……。早く行かないと……え?ああこの子か?」

 

 もしかしてカラスとお話をしているのでしょうか。


 しかし私には聞こえないのでおそらく、フユさんとしか意思疎通のできない従魔のでしょう。

 

 魔物の力を借りられる契約の魔法でしょう。

 

 これでも私は魔法の知識は豊富なので、こんな事では驚きません。


 まあ私は使えないんですが……。

 

 話の内容からして、私の事が気になるご様子、ここは淑女としての自己紹介をするべきですね。


「私は天奈と言います」

 

「カ~!」

 

「こんにちはだってよ」


「あら可愛い」

 

 魔物とは思えない程、賢い個体の様です。


 基本、魔物はそこまで知性が高くありませんし、はっきりと意思疎通ができる者もなかなかいないはず。

 

 さらには先へ行ってしまった船の偵察まで任せられているというなかなか優秀なカラスさんのようです。

 

 従魔のカラスさんが気になって見つめていると、そこへフユさんが私に声を掛けてきます。

 

「てことで俺はあの船、行くから……暇だったら助けてやるよ!」


「もう船行きましたよ?」


「一応、間に合う方法がある」

 

「おぉ~……それって私も連れていけません?」


「え……船に無断で乗るのはちょっとなぁ……」


「あなた今から行こうとしてましたよね?それに先ほど泣いていたのはそれが理由なので……一応お金が必要なら出せます」

 

「いや、要らない。だがまあそういうことならいいぞ」

 

「やった!」

 

 あれ?それじゃあ私が客船を追うために宝物をお金に還元する必要はなかったんじゃ……。

 

 仕方ありません……とりあえずこのお金で先ほどのお宝を返してもらいましょう。


 指輪を売った雑貨屋へすぐに取り返し行く。


 するとフユさんは突然動き出した私に驚き声を掛けてきます。

 

「どこへ行くんだ?」

 

「私の大切な宝物を返してもらいに」

 

「買い戻すのか?無理だぞ」

 

「……どうしてですか?」

 

「君持ってるお金はさっきの雑貨屋に売った分だろ?」

 

「はい」

 

「多分買う時はそれよりも高いぞ」

 

「どうしてですか!?」


 どうやらお店に物を売る時と買うときとでは値段が違うみたいです。

 

 なんでも同じ値段で売ってしまうと利益にならないからということ……確かにそうですけど、そうなんですけど!!


 それじゃあ私の2分の葛藤は無意味だったというとではありませんか。

 

「そんなことも知らなかったんだな」

 

「……」

 

「不思議な奴だな。お宝は後にして、船へ向かおう」

 

 こっちは本気でショックを受けているというのに!!


 しかし、協力してくださるのであれば断る必要も無いです。

 

 こうなったら少しお高くなってしまった大切なものを船に置いてきたお金で取り返せばいいのです!!


 ついでに置いてきてしまったイズナを連れ返ればすべて解決します!!


 さすが天才魔導士である私、一切焦っていません。


「ほら、行くぞ手を繋いでくれ」


 私は他人の手を取ることを嫌がるような人間ではありません。それが男性だろうが女性だろうが関係ありません。

 

 どちらも人なのですから……。


「よし、ん?君、汗を掻いてるのか?」

 

「え……」

 

「焦る気持ちは分かるが、飛んだら戦場の可能性がある。準備しておいた方がいいぞ?」

 

「戦場……どういう……?あれ飛ぶ?あ、そういえばどうやってあの船に――」


 しかし最後まで言い終える前にフユさんの魔法が発動してしまいます。

 

 フユさんは剣を私の手を握っていない方の手で抜き、そして後ろにむけた。


 あれ……なんだかとっても嫌な予感が……。


「水でブーストして水面を走る。行くぞ!!!!」

 

「はいぃぃぃぃ⁉そんなの無理ですよ!!」


「できる!と思うけど、距離が離れすぎると無理になるからもう行くぞ?うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」


「嘘……ええええああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 意識が飛んでしまう程の勢いで身体を地上を離れると、本当に少しの間だけ気絶してしまった。

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