第6話 ダンジョン

ミサキとリーナは、山の奥深くにぽっかりと口を開ける巨大な洞窟の前に立っていた。


「ここが……ダンジョン……!」


ミサキは目の前の光景に、心が躍るのを感じた。


「なんか、ワクワクしてきたな……!」


「でも、気を引き締めないといけませんよ。ダンジョンは危険な所なんですから!」


ダンジョン――それはモンスターたちの巣窟。


強力な魔力によって発生すると言われるダンジョンには、凶暴なモンスター達がひしめき合い、放っておけば、群れを成して外へ溢れ出す事もある危険な場所でもあった。


「ああ、わかってる」


「でもラッキーでしたね、ダンジョンがあるなんて。

ダンジョンはマナスポットである可能性が高いんですよ」


そう、ダンジョンとは強力な魔力によって生まれた場所。


強い魔力が充満してると言うマナスポットの条件に当てはまる可能性は高い。


「とりあえず、入ってみよう」


そう言って、ミサキは一歩を踏み出した。


***


洞窟の中は、本来ならば暗闇が広がっているはずだった。


だが――


「……明るいなぁ」


ミサキは周囲を見回す。


洞窟の内部は、青白い光にほんのりと照らされていた。


「これもダンジョンの特徴ですね」


リーナが説明する。


「ダンジョンの中は、魔力の影響で明るく見えるんです。

だから、明かりがなくても問題ないんです」


「知識としては知ってたけれど……実際に見ると、なんか不思議な感じだ」


そう呟いた瞬間――


ガシャッ!


「……っ!」


ミサキは咄嗟に剣を抜く。


暗闇の奥から現れたのはゴブリンだった。


だが、サーショ村で見たものとは明らかに違う。


サーショ村のゴブリンはこん棒を持っていたが、このゴブリンは剣を握りしめていた。


体格も一回りも二回りも大きい。


「ミサキさん、気をつけて!普通のゴブリンとは違います!」


「ああ……でも、キラーベアに比べたら、そんなに怖くないな」


ミサキは余裕の笑みを浮かべた。


ゴブリンが剣を振りかぶり、猛然と突っ込んでくる。


しかし――


「遅い」


ミサキは軽やかに身をひねり、ゴブリンの攻撃を回避。


そして――


「せいっ!」


素早く剣を振り、ゴブリンに刃を突き立てた。


ゴブリンは一瞬もがいたが、やがて力なく崩れ落ちた。


「やりましたね!」


「ああ」


喜ぶ二人。


ふとゴブリンを見ると、サラサラと塵となり、消えていった。


「消えた……」


「ダンジョンモンスターですからね……倒すと消えてしまうんです」


ダンジョンモンスターはダンジョンの外に出られず、倒すと消えてしまう。


その為、よほどの事が無ければダンジョンから外にモンスターが出てこないのも、それが理由だ。


最も、ダンジョンを放置してると、そのよほどの事が起きてしまうんだとか。


ダンジョンモンスターが素材になる事も無いので、ダンジョンは見つけ次第、即座に機能を停止させるのが通例となっている。


「知ってはいたけれど、いざ目の当たりにすると不思議な気分だな……」


「魔法で生み出したものはしばらく経つと消えてしまう。それと同じ理屈なんでしょうね……」


その後、ミサキとリーナはダンジョンを進んでいった。


道中、何度かモンスターに遭遇したが――


巨大コウモリ、こん棒を持った豚の怪物、二足歩行のオオカミ。


そのどれもが、ミサキの素早い剣技とリーナの魔法によって難なく撃退された。


やがて――


「……また行き止まり?」


二人は、何度目かの行き止まりに突き当たった。


「うぅ……どうやら迷っちゃいましたよ~……」


リーナが申し訳なさそうにうつむく。


しかし、ミサキはニヤリと笑った。


「大丈夫。来た道は全部覚えてるから」


「……え?」


リーナが驚いたようにミサキを見つめる。


「今までどこをどう曲がったかは全部覚えてるんだよね」


「す、すごい……!そんなこと、普通の人にはできませんよ!?」


「まぁ、記憶力には自信があるからね」


リーナはミサキの驚異的な記憶力と方向感覚に驚いた。


「でも、ちょっと休憩しようか」


「そうですね、ちょっと疲れちゃいました。じゃあ結界を張りますね」


そう言うと、リーナは青い液体が入った瓶を取り出した。


どうやら結界を張る為の聖水らしい。


リーナはその青い液体をたらして、大きな円をえがく。


そうしたら、リーナが杖を振る。


すると、えがいた円が光り輝き、モンスターが入ってこれないような結界が作られた。


「張れました!」


二人は腰を下ろし、リュックからチキンのサンドイッチを取り出す。


ダンジョンモンスターは倒すと塵となって消えてしまう為、食べる事ができない。


その為、食事はあらかじめダンジョンの外から持ち込む必要があった。


サンドイッチは時間が経って冷めてる為、二人はかるく火で炙ってから食べる事にした。


「美味しい!」


火で炙ったおかげで暖かくなり、焦げ目も付いて中々美味しい。


ボリュームがあり、味付けもしっかりしている。


ハチミツドリンクも飲み、体力と魔力を回復させる。


二人は食事をしながら、しばしの休息を楽しんだ。

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