NPA Collected Paper Museum Department

八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子)

事案一「みちすがら」

 季節はワンピースを脱ぎ捨てて、どうやらビキニにでも衣替えをしたようだ。

 七月の初旬だというのに道すがら傍にあった温度計の表示は四十度を超えていて、木々の緑が直射日光で茶葉を焼き入れする如く炙られている。

 そんな山間の集落の道を赤色灯を点灯させたセダンタイプのパトロールカーが器用なハンドル捌きで走っていた。白黒のツートンカラーの車体は綺麗に磨かれ輝き、赤色灯の灯さえも曇りはない、教則通りの仕様に警察関係者ならきっと目を見張るほどだろうと思われるが近寄る事はない。

 車体にはまず見かける事のない「警察庁」、天井の対空標記には「集美7」とあるからだ。

 都道府県の地方警察の所属ではなく、全国を束ねる警察組織、そして「集美」とは「収集紙美術館」の略称である。警察庁の付属機関として取り扱われており、同格機関としては皇居の守り人である皇宮警察か、または最新科学捜査の研究機関である科学警察研究所だろうか。

「あっついよなぁ」

 運転席でハンドルを握っている活動服姿の警察官が隣に人でも乗っているかのように、気さくに話しかけ、そして公務運転中ならありえない、片手ハンドルで傍に置かれた炭酸水のペットボトルを一口飲んだ。

「うふぅぅぅ!」

 後部座席からその声に返事をするかのように、何かを必死に訴えかけるようにくぐもった女性の声が聞こえてきた。

「お、意識失ってない、いいね、そこまで強いなら好都合だ」

 気さくにそう言った運転手は鼻歌を歌いながら、一本道をただひたすら走らせてゆく。

 助手席用のバックミラーの角度は変更されていて、運転席助手席の間を移すように調整されて、映し出されていたのは両手足を背後で縛られて紐で固めたれた人影であった。

 鑑識が着る作業着のような警察制服、そして、背中には神奈川県警察とある。

 偽物ではない、正真正銘の本物の服だ。

 数時間前までその姿は神奈川県警察・糸川警察署鑑識課旧庁舎にあった、だが、体を縛られてタオルで口を縛られ、車に無理矢理乗せられて、連れ去られてい最中だ。


 警察車両、それも、パトカーで。

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