第9話

 ◆


 美咲は日に日に強くなる腹部の痛みに耐えながら、自宅のベッドに横たわっている。


 体調の悪さが続き、大学へもほとんど行けなくなっていた。


 常に痛みつづけるわけではなく、小康状態も挟むのが救いだった。


 この日、美咲は昼過ぎから夕方頃まで眠っていた。


 そして夕方、目が覚めて一番に思った事はやはりあの手紙だ。


 幸い腹痛は余りない。


 ずくんずくんとした鈍痛はあるものの、動けないというほどでもなかった。


 美咲はおそるおそる外の郵便受けを覗きにいくと──あった。


(やっぱり……)


 この時にはもう美咲は手紙に恐怖心すら抱いていた。


 封筒を取り出し、また差出人の名前を確認する。


『さいとう さくら』


 封を開ける手が震えた。


 ──


『おかあさんへ


 きょうもさくらはげんきにしています。 おとうさんはずっとおこっています。 さくらはまた、ごはんをたべられませんでした。


 おとうさんがおこったとき、さくらはめをとじます。 めをとじると、しらないおへやがみえます。 せまいおへやで、ほんがいっぱいならんでいます。 おんなのひとがねむっています。ときどきつかれたかおをして、おなかをおさえています。


 あのひとはだれですか? おかあさんのおともだちですか? 


 それともおかあさんですか? 

 こっちをむいてくれたらいいのに。


 さくらはまたてがみをかきます。 さくらより』


 ──


(お腹?)


 美咲は手紙を読みながら、奇妙な違和感を覚えた。 自分の姿が頭をよぎったが、すぐにそれを振り払う。


「偶然よね……」


 しかし、不思議な不安感は消えなかった。 美咲は手紙をそっと引き出しにしまうと、再びベッドへと倒れ込んだ。

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