第4話

 ◆


 朝、美咲は目覚めると強烈な違和感を覚えた。


 ベッドの上で恐る恐るお腹に触れてみる。やはり、少し腫れているような気がした。


 何かの病気かもしれない──そう思うと不安が急速に広がり、大学の講義は休むことに決めた。


 病院の待合室は平日の午前ということもあり、それほど混雑していなかった。内科の診察室に呼ばれ、医師に症状を伝える。


「数日前からお腹が張るような感じで、痛みも少しあります」


「ふむ、なるほど……じゃあ念のため検査しましょうか」


 腹部のエコー検査とレントゲン撮影を行った後、再び診察室で結果を待つ。その短い時間でさえ、途方もなく長く感じられた。


 やがて医師は落ち着いた表情で検査結果を見せながら口を開いた。


「検査の結果、特に異常はありませんでした。内臓も正常ですし、何か腫瘍なども見当たりませんね」


「でも、お腹が膨らんでる気がするんです……」


「うーん、腫れや張りを感じる症状はストレスや疲れなど精神的な要因から来ることも多いんです。最近、何か強いストレスを感じているとかありませんか?」


 美咲の頭に、あの奇妙な手紙のことが浮かんだ。


「いえ、特には……」


「もし痛みが続くようでしたらまた来てくださいね」


「はい……」


 病院を出て、自宅に戻った美咲は、すぐに郵便受けを確認した。今日は、手紙は届いていないようだった。


 少し安堵しながらも、なぜか寂しいような奇妙な感覚に襲われる。そんな自分自身に戸惑いを覚えながら部屋に入ると、机の上に置きっぱなしになっていた昨日までの手紙が目に入った。


 どうしても気になって、再びそれらを手に取る。『さくら』が抱える苦痛が、自分の体にまで影響している──そんなあり得ない考えが頭をかすめた。


「……考えすぎだよね」


 自分に言い聞かせながらも、下腹部に感じる圧迫感はまだ微かに続いている。


 美咲は恐怖をごまかすかの様に、手紙を引き出しの奥深くにしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る