第3話 なんだこの世界、マジでぱねぇっ!!

 夫婦の会話、妹達の会話、テレビからの情報を頼りに、この世界がどんな感じなのかを知った。


 一言でいうと、『色んなアニメや漫画、ゲームなどの要素が全部ぶち込まれている世界』だった。


 私の名字は前と変わらず万英正まえだだった。


 転生先の家族構成を簡潔にまとめると、こうなる。


 父……万英正マモー。魔王。

 母……万英正マザー。アンドロイド。

 妹……万英正バニラ。中学二年生。魔法少女。

 妹……万英正ショコラ。小学二年生。全てをお菓子に変える力を持つ。

 妹……万英正ダモモ。幼稚園年長。語尾にダモを付ける。動物と会話できる。


 改めて考えてみると、なんだこの家族。


 ぶっ飛び過ぎでしょ、これ。


 でも、個性的で面白そう。


 前の家族に比べたら、明るくて楽しそう。


 さて、テレビで得た知識はというと、ヒーローが怪人を倒したとか、魔法少女が悪の組織を捕まえたとか、映画の世界でも見ているようなニュースばかりだった。


 それに天気予報に加えて、『デスゲーム注意報』があった。


 これは、死亡ありのバトルロワイヤルやホラー系、大金がかかった系のゲームやイベントなどが開催される地域を知らせる予報だ。


 もしそのゲームの開催地が自分達の地域にあてはまった場合、外出禁止令が出される。


 それでも参加する事になってしまった場合は、頑張って生き残ってください――とのこと。


 最終的には自分で頑張らないといけないのか。


 一回だけ脱出できる権利とかあればいいのに。


 まぁ、今日は私が住む街には開催されていなかったので、安心して登校する事ができた。


 私は前世と同じく高一らしい。


 しかも、入学式を終えてからの初登校。


 という事は、私はこれから未知なる子達と学園生活を送らなければならないのか。


 不安。死ぬほど不安。


 大丈夫かな。命いくつあっても足りない気がする。


「おーい!」


 トボトボと歩いていると、背後から声が聞こえた。


 振り返ると、クロッピーが何かをくわえて駆けてきた。


「どうしたの? そんな猫っぽい事をして」「実際ほとんど猫だから……それより、これ」


 黒猫はくわえてきたものをペッと地面に投げつけた。


 拾ってみると、バッチだった。


 丸型で全体的にキラキラ光っていた。


 真ん中には『Almighty Hero』と印字されていた。


「何これ?」

「『オールマイティ・ヒーロー』。世界で一番強いヒーローの証さ」


 世界で一番強いヒーローの証?


 これはもしかして――異世界でよくあるチート級のパワーを授かったのではないだろうか。


 おぉ、ぶっ飛んだ現実世界に転生したから何かしらの特典は欲しいなとは思っていたけど。


「でも、どんな感じに強いの?」


 聞いてみると、クロッピーは「ん〜? そんなの自分で考えてよ」と顔を洗った。


 こいつ、本当に適当だな。


 尻尾でも掴んでやりたい所だが、なんか地面が揺れているから、それどころじゃない。


 それに『ドドドドドド!!!!』って、何かが突進してくるような音が聞こえてるし。


 何だろうと思っていると、民家の壁から恐竜とサイを足して割ったような怪物が現れた。


「グギャアアア!!!」


 そいつは私に向かって生臭い息を吐きつけた後、丸呑みしようとしてきた。


「いやあああああ!!!」


 私は悲鳴を上げながら動かそうとしたけど、できなかった。


 だって、これ仮想現実とかじゃないんでしょ。 ゴーグルなしでこの迫力を間近で見られたら、脚がガタガタになるのは当然だよ。


「スバル! ジャンプして!」


 クロッピーが叫ぶが、思うように動かない。


 あぁ、怪物の口がもう目と鼻の先だ。


「もう! 仕方ないな!」


 クロッピーがニャオンと鳴いた。


 すると、どういう訳か、脚が勝手に動き出しジャンプした。


「うわあああああ!!!」


 その跳躍が凄まじいこと。


 あっという間に家の屋根が小さくなった。


 怪物もいきなり消えてビックリしたのか、キョロキョロと辺りを見渡していた。


「何これ?! どうなってるの?!」


 とにかく何かしようと、手脚をバタバタさせる。


 すると、クロッピーがいつの間にか隣にいた。


「君の脚を僕の念動力で動かしたんだよ」「何それ?! 神様みたい!」

「神だよ。見た目猫だけど」


 それよりもとクロッピーが話を続けた。


「君は怖がっているようだけど、あの怪物に勝てるよ」

「はぁ?! どうやって?!」


 勝てるって、あんな奴とどう戦うのよ。


 パンチ? キック? それとも魔法?


 クロッピーはウーンと唸った後、「とりあえず武器を渡しておくね」と言って、またニャオンと鳴いた。


 すると、私の片腕に硬い素材で作られたグローブがはめられていた。


 なんか真っ黒で赤い宝石が埋められているけど、なんだこれ。


「それは巨大な力を相手にぶつけるパワーグローブだよ」


 クロッピーが手脚をパタパタさせながら答えた。


 なるほど。この武器を使えばあいつに勝てるんだな。


 よし、一か八かやってみるか。


「空中キーーーーク!!!」


 私は思いっきり宙を蹴って、勢い良く降下した。


 ビュオオオオオ!!!


 風を切り、ドンドン怪物との距離を詰めていく。


 怪物は私の気配を察したのか、ゆっくりとした動きで見上げていた。


「ハアアアアア!!!」


 とりあえず、なんか格好良さそうな感じで叫びながらパワーを注入する。


 すると、赤い宝石が光り出した。


 本当に溜まっているんだ。


 よし、ならば。


「なんか知らないけど、メチャクチャ強いパーーーーンチ!!!」


 落下したスピードのまま奴の鼻目掛けて、その拳をぶつけた。


 すると、あっという間に奴の顔面が潰れた。


 さらに頭、胴体、両脚も続けてプレスされ、潰れた空き缶のような状態になった。


 華麗に着地した後は、瀕死の怪物にトドメを刺すだけだった。


「手からファイヤーーー!!!」


 グローブじゃない方でやってみたら、勢い良く出た。


 怪物がメラメラと燃えている。


「すごい……」


 あまりの凄まじさに、つい自分の両手を見てしまった。


 本当に圧倒的な力を手に入れたんだ。


 これさえあれば、色んな悪を退治できる。


 無敵のヒーローの誕生だ。


「ワーーーハッハッハッ!!!」


 私は勝利の笑い声を上げて、怪物が燃える様を見ていた。


 クロッピーも隣にちょこんと座り、ポリポリと耳らへんをかいた。


「……学校は?」


 クロッピーがポツリとそう尋ねた。


 この言葉に私はアッと声を漏らして青ざめた。


 やべぇ、遅刻だ。

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