第2話 うちの家族のくせぇがすげぇ!!

 目を開けたら大草原――ではなく、地味な内装の部屋で目覚めた。


 ベッドはフカフカじゃないし、枕もお気に入りのそば殻のやつでもない。


 ビッシリ埋まった漫画本もアニメのフィギュアもない。


 あるのは空っぽの棚と机だけ。


 なんだこれ、殺風景にも程があるでしょ。


「しかたないよ。大急ぎで作ったんだから」


 私がぶつくさ文句を言っていた時に、ベッドの下から声が聞こえてきた。


 もしかして覗きかと思い、バッと這いつくばって見てみると、猫の眼と合った。


「クロッピー?」


 私が名前を言うと、猫の眼は「そうだよ」と言った。


 ベッドの下からモフモフっと黒猫が姿を現した。


「大急ぎってどういうこと?」

「引っ越しみたいなものだよ。別の世界から転移させるには、ちょうどいい感じにすっぽりと、はまる居場所がないといけない。僕が速攻で探した結果、この世界のある家族の一員にさせたんだ」


 うーん、つまり、私はある親の子供になったって事かな。


「うん、簡単に言うとそういうこと」


 クロッピーは頷く。


 すると、「スバル〜! ご飯よ〜!」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「もしかして、あの声の主が私のママ?」「だね」


 なるほど。私の名前は同じなんだな。


「でも、あなた『ぶっ飛んでいる』って、言ってたけど、どんな感じでぶっ飛んでいるの?」


 そう聞くと、クロッピーはウーンと唸って「まぁ、行ってみたら分かるよ」とだけしか言わなかった。


 なんか怪しいけど、お腹空いたし、行ってみるか。


 部屋から出て、階段を降りる。私の部屋は二階にあるのか。


 うーん、壁はいたって普通。


 おっと、笑い声が聞こえてきた。


 大人の低い声、子供のはしゃぐ声、大人っぽい女性の声。


 私の家族は何人家族なんだろう。


 それも含めて確かめるべく、開きっぱなしのドアの中に入った。


「みんな〜! おはうわあああああ!!!」


 本当は爽やかに『おはよう! 今日もいい朝だね!』と言いたかった。


 けど、叫ばずにはいられなかった。


 だって、キッチンで、ロボットが背中から機械の触手をビヨンビヨン伸ばして、配膳したり注いだりしていたからだ。


「あら、スバル。おはよう」


 頭部にある電光掲示板にニッコリと笑っている絵文字を浮んでこっちを見ていた。


 無機質な身体にエプロンが付いていてあるという事は、これが私のママ?


「おは、おはよう……」


 早くも衝撃的なファーストコンタクトに面食らい、フラフラになりながら食卓に着く。


 が、私の向かい側に座っている人に、今度は血反吐を吐きそうになった。


 正面にパパだと思わしき人がいるのだが、頭から巨大な角が生えて、上半身ムキムキの裸に紫色のマントを羽織って、ウインナーを食べていたからだ。


「……ん? どうした。スバル。パパのタコさんウインナーはやらんぞ」


 どうしたと言いたいのはこっちだよ。


 なんだよ、その格好。


 タコさんウインナーなんていら……美味しそう。


 普通の茶色のウインナーじゃなくて、真っ赤なウインナー。


 私の大好物だ。


 あぁ、食べたい――と思ったら、目の前にあった。


 スクランブルエッグとレタスのサラダ、タコさんウインナーもある。


 食パンと紅茶もある。完璧なモーニングセットだ。


「いっただきま〜す!」


 フォークでタコさんウインナーをさして食べる。


 うーん、このどんな肉が使われているか分からないミステリアスでチープな旨さがたまらない。


「おねーちゃん!」


 私が味わっていた時に、サイドツインテールの女の子が私を覗き込んできた。


「うわっ!」


 思わず椅子から落ちてしまった。


 あぁ、尻が痛い。


「だ、大丈夫?! 待ってて、私の魔法で起こしてあげるから」


 サイドツインの子はそういうと、何もない所からステッキを取り出した。


 リボンが付いているという事は――まさか。


「えい!」


 少女が叫ぶと、杖が光り出した。


 そして、いつの間にか私は椅子に座っていた。


「バニラ、うちで勝手に魔法のステッキを使っちゃ駄目でしょ」


 ロボのママがお皿洗いと皿拭きと片付けを同時進行しながら注意していた。


 バニラという名の子は「ママ、ごめんなさ〜い!」と言って舌を出した。


 そして、私の方を見て「これで目が覚めた?」と言ってトーストをかじった。


 もしかして寝ぼけていると思っていたのかな。


「ねーちゃん! 勝手にタコさんを変えないでダモー!」


 今度は何だ。


 左隣の方を見ると、バニラよりも幼い顔立ちの二人が何か争っていた。


 一方は全身ピンクのドレスを着ていて、模様にクッキーやケーキがプリントされていた。


 もう一方は幼稚園の制服を着ているが、赤ずきんを被っていた。


 その二人は、タコさんウインナーに関して言い争っていた。


 この家族、タコさんウインナー大好きかよ。


「こら、ショコラ、ダモモ、喧嘩はやめなさい」


 ロボママが二人を注意する。


 だが、メルヘンチルドレンはそう簡単に収まらないようだった。


「だって、ショコラねーちゃんがダモモのウインナーを勝手にチョコに変えちゃったんダモー!」

「はぁ? 最後まで残しておくのがいけないんでしょ。それにいいじゃない。チョコ好きでしょ」

「タコさんが良かったんダモー!」

「じゃあ、とっとと食べれば良かったじゃない! いらないなら、全部食べちゃうぞ!」「嫌ダモー!」


 ショコラという名のピンクの子は何でもお菓子に変える力があるらしい。


 確かに彼女のお皿の上は、ロリポップキャンディーや一口サイズのチョコなどが山積みだった。


 そして、その隣にいるダモモという赤ずきんの子は、語尾に『ダモ』を付けて話す子だ。


 これを踏まえて言おう。


 この家族、クセが強すぎじゃね。

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