13.心霊スポットin三戸トンネル③
実のところボクは三戸トンネルには来たことがなかった。
いや、多分認識してないだけで通ったことはあるんだろうけど、何かしらの目的でこうして来るのは初めてだ。
だいたいは宗馬が観てる心霊スポットの動画を傍らで観てるだけだったしね。
(まぁ、画面からでも何か居るのは分かってたけどね……)
「雰囲気ありますねぇ」
「まだ車もそれなりに通っているね。まぁ、まだ16時過ぎだから当たり前か。ところで」
チラッと千織部長がボクの方に顔を向けてきた。あーうん。分かった。この人が聞きたいの。
「…………居るよ」
正直に答えるしかない。
まだ三戸トンネルは先にあるとはいえ、トンネルの中に黒い人影が佇んでいるのが分かる。
その人影は自分の存在にボクが気づいたから視線がかち合うのが分かった。
喉から変な音が出て、ボクはトンネルの方から視線を外して、宗馬のシャツの裾を軽く摘んで半歩下がる。
「どこら辺にいるとかは分かるかい?」
「…………」
「部長、それくらいにし」
目を伏せたまま指をトンネルへと伸ばす。
「トンネルの中にちゃんと居るんだねぇ」
「部長。場所移動しませんか?」
「そうだね。一度移動しようか」
千織部長の言葉に頷いて移動することになった。
移動がてら、ボクがまだシャツの裾を摘んでいたからか宗馬が顔を覗き込むように見てきた。
「大丈夫か?」
「…………視なきゃ、平気」
「あんま無理すんなよ」
「ありがと。でも大丈夫……」
何度か深呼吸をして気分が落ちつき、宗馬の目を見返しながら頷く。
自販機で宗馬が自分用として買っていた水のボトルを渡されて、最初は断ろうと思ったけど水分摂れと言われてしまえば頷くほかない。
コク、コクと飲んだあと飲み口を指で拭ってからキャップを閉めて返す。そんな時に千織部長がボクのそばに近づいてくるのが分かった。
「少し聞きたいことがあるんだけれど、大丈夫かい?」
「……うん。多分だけど千織部長の聞きたいこと分かるよ。トンネルの中のどこに居るのかでしょ?」
「あぁ、よく分かっているね。それもあるし、きみの目はどこまで正確なのかなと思ってね」
どこまで……か。
そういえばそこまで気にしたことなかった。というか気にしないようにしていたの方が正しいかも。
だって視えるけどそんな存在視たくないし。
目元に手を当てながらボクはとつとつと答える。
「…………分からない、な。ボク、はさ……この目が嫌いで、そこまで気を割けなかった……ね。うん」
「ふぅん……。私が思うに、きみがこの依頼の鍵を握ると思うんだ」
「ボクが? いや、そんなまさか……」
いくら視えるのがボクだけだからってそんな……え、嘘だよね? いや、千織部長の目は嘘言ってないや。でも……うぅん。
「…………少し、考えさせて」
「分かった。とりあえず今日のところは三戸トンネルは“本物”だということが分かっただけでも良いかな」
ほん……もの?
あぁ。ボクがトンネルの中に居るって言ったからか。ただ、主な現象は『女性の霊が現れる』というのと『足音が聞こえる』っていうものらしいけど……ボクが視えたのは──。
──男の姿だ。
「……………!」
さっきの光景を思い出して口をおさえる。
お腹がひっくり返るような感覚で胃液が立ち上がりかけるのを必死におさえるので肩が大きく上下する。
「お、おい大丈夫か?」
「大丈夫!?」
「大丈夫かい?」
今更ながらに
『幽霊というのはね、なにも、人の形を成しているわけじゃないんだ。魂だけだったり、死んでしまった時の状態がそのまま顕れてしまうことがあるんだ。だからね、──。
もし、ちゃんと視る時、それがどんな姿をしているのか。何を抱えているのか。それらを考えてあげて』
正直、視たくない。
“アレ”はきっと、良くないものだ。けど……。
『私が思うに、きみがこの依頼の鍵を握ると思うんだ』
千織部長からそんな期待をされて、けどその時の目はボクの身を案じてるような優しさのある目。
「…………い。おいっ。ゆっくり呼吸しろ。良いか?」
パンと背を叩かれて我に返る。
宗馬にそう言われて、反対側には愛理先輩がいて、背中を摩られるのを感じながら1回、2回と深呼吸を重ねる。コヒュゥと渇いた音が口から出てどうにも心地の悪い感覚が消えない。
「……ま」
「なんだ?」
「、ず……みず、ちょうだい」
「分かった。ほら」
両手でペットボトルを持って軽く口に水を含んで、思い切り地面に含んだ水を吐き出す。
「──えっ?」
「…………?」
「……嘘だろ」
地面に落ちたのは透明な水……のはずだった。
だけど実際は目を疑うようなもの。
「ひっ……!?」
どす黒く、まるでボランティア活動でやった側溝の掃除で見るようなドロが、ボクの口から出てきたのだった。
けれどそれはただのドロじゃなくて、なんというか……細い繊維のようなものが巻き付いているように見えて、より気色の悪さを感じる。
この見た目がボクの口から出たなんて思えず、宗馬に思い切り肩をぶつけるくらい驚いてしまったけど、そんなことよりも目の前のことを信じたくなくて首を横に振り続ける。
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