6.検証を終えて推理をしよう


「きみ、

「…………!」


 まさか愛理先輩が話したと……いや、違うみたいだ。

 じゃあ千織部長自らが……?

 いや、そんな……まさか……。


「沈黙は肯定、と取っても良いのかな?」

「………………」


 いつ気づいたんだこの人は。


「……いつ」

「うん?」

「いつ、分かったのか聞いても良い?」

「あぁ、そうだったね。うん。じゃあ説明しようじゃないか。なんで分かったのかをね」


──────

────

──


 まず、様子がおかしいと思ったのは女子トイレから出た時だったね。

 おや。そんなに驚くことかな?

 まぁ、いいや。続けるよ。


 あの時のきみは、私たちを見ているようで見ていなかった。

 んだよ。

 自覚がなかったかい?

 ことあるごとに都度5回以上、見ていたよ。


 そこで私は何かあるんじゃないかって思ったよ。

 人の言動というのは心理学などで説明がつく。

 まぁ勿論、統計なのだからそれが正しいとまでは言わないけどね。


 さて、次に引っかかったのはココで話をした時だ。

 きみ、何か話そうとした時に宗馬くんを見る“クセ”があるね?

 おや、驚く必要はないんじゃないかい?

 だって実際今でも3回は見ていたよ。


 ふむ。やはり自覚無かったみたいだね。

 焦る必要はないよ。私がただ人を見る目に長けてるだけだしね。私のような人でなければ気づきはしないだろうね。


 それで──。


「もう良い……!」


──────

────

──


「ふむ? もう良いってのは?」

「…………認めるよ」


 こうして黙っていても延々とつまびらかにされるだけだ。この際、ハッキリと認めた方がいい。


「確かにボクは霊が視える。それもくっきり視えるものはくっきりと」

「ほう……詳しく聞いても良いかな? いったいいつから」

「知らない。それは分からないよ。ただ気がついたら変なものが視えてた」

「ふむ。そうか……。あっ、じゃあ七不思議の中できみの中でも怪しかったのはなんだい?」


 これもまた、本当のことを言わないといけないだろう。……いや、多分この人は気づいてる。

 ボクはほんの少し嘆息してから正直に伝えることを選ぶ。


「トイレの薔薇そうびさんと被服室の三面鏡のふたつ」

「それ以外はニセモノと思っても良いわけだね?」

「存在を認めたくないけど、このふたつはハッキリと存在してるとしか言えない。でも、他は時間の問題かも」


 「ふむ?」と相槌かどうか分からない声が対面から聞こえる。

 すぅとボクはさっきまであった焦りや驚愕を落ち着けつつ話を続ける。


「ほら、言うでしょ。人の言葉に力があるって」

「あー、“言霊ことだま”ってやつだね」

「うん。それもそうだし、人の噂が重なるとそれで怪異は成り立つって前になんかで読んだからそれもまたあり得るかもって」

「ふぅん。なるほどねぇ……。そこら辺、寺のせがれとしてはどうなんだい宗馬くん」


 いきなり話を振られて、ガタガタとうるさい音を上げる宗馬。というか寝てたなこいつ。


「んぁ? あ、あー……なんの話してたんだ? わりぃ」

「宗馬、きみねぇ……」

「ふふっ。なに、ちょっとした疑問を聞きたかっただけだよ。人の噂だけで怪異は成り立つか否かっていうことをね」


 おっきなあくびと伸びをしないの。人目というのを気にしないなぁほんとに。


「あー……まぁそういうのもあるんじゃないっすかね」

「おや、割と投げやりだね」

「実際、人の口には戸を立てられないなんてのは良くあることだって聞くっすからねぇ。な」

「な。ってこっち見んなこっちを」

「いでっ」


 ぺしっと肩をはたいた程度で何言ってるのさ。対して痛くもないくせに良く言うよ。


「俺らだってそういったので苦労してきただろ」

「それは今言わなくて良いから」


 ほら興味持ち始めたじゃんこの人!


「ま、まぁほら、宗馬は天台宗だからそこら辺興味がないんだよ。そうでしょ?」

「まーそうだなぁ。噂とかは別に興味ないなうん。誰それと付き合ってるだのとかそこまで」


 まぁ、七不思議に関してはきみから聞いたんだけどね。色恋沙汰には興味ないくせしてそういうのは好きなんだよねこの人。


「遅れてごめんなさ〜い……ってあら? もう終わった感じかしら?」


 ガラガラと結構盛大に引き戸を開けながら入ってくる愛理先輩。


「あぁ、うん。終わったには終わったよ愛理」

「あら〜残念です。わたしもいたかったんですけど、何分なにぶん先生の話が長くて遅くなってしまいました」


 あれ、割と毒舌?

 意外に思ってついまじまじと愛理先輩を見るとボクの視線に気づいて可愛らしく小首を傾げた。


「あら〜? わたしの顔に何かついてますー?」

「あっ、いや……なんというか毒舌だなって」

「ふふっ。実はちょこっとお口がわるわるなんですよ〜」


 と、口の前で両人差し指をバッテンにしながらクスクス笑う愛理先輩。雰囲気も顔も良いからか尚更様になっているなぁ。


「あ、それでそれで、先生が言っていたんですけど〜」


 愛理先輩は自分のカバンから可愛らしいメモ帳を取り出してパラパラ捲った後に言った。


「色々言われてたけど要約するわね〜。『被服室の三面鏡が割れていたから入らないように』ですって」

「なんだって……?」


 なるほど。確かに昨日、被服室にいたのはボクたち。そしてボクたちは割れていないことを証明できる。つまりは、ということだ。


 まったく。どうやらまだ平穏は訪れなさそう。

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