4.魁聖高七不思議③
「……なんだって?」
ボクはその様子にこっそりとため息を吐いて、我関せずを貫くために空気に徹する。
「宗馬くん。今、なんと言ったんだい?」
「え? いや、ふつーに空気澄んで良かったっすねって」
「どうしてそう思ったのか聞いても良いかい?」
「そー……っすねぇ……。これ、言われたことなんすけど、木魚を叩いたり、真言唱えてたりとかしてる時に音の反響って分かるらしいんすよね」
あー、確かに教えてもらったっけ。
まぁボクにはなんの参考にもならなかったけど。
だって常にコレがあったわけだし。
「ふむ。それで?」
かなり前のめりな調子だなぁ。
そんなに気になることなんだろうか?
なんて思っていると、左から近づく気配が。チラッと目を動かせば、愛理先輩だった。
「部長ね、オカルトとか都市伝説が大の大好きなんです」
「は、はぁ……」
楽しそうに笑いながら耳打ちする愛理先輩に気の抜けた相槌しか打てなかった。
どことなく、嫌な予感を抱いて警戒してしまう。
「あっちはあっちで盛り上がってるしさ、ちょーっとわたしともお話ししましょ?」
ぱちっと可愛く右目を閉じたものだから思わず息を呑んだ。
整った顔立ちのいわゆるギャル系というのだろう。そんな顔でされるのだから目を惹く。
それにどうやら断るという選択肢はどうやらないようだ。
「わかった。ふたりの邪魔もなんだし廊下で」
「うんうん、そうですねぇ」
本を表紙を上にテーブルに置いて廊下に出る。
少し心地の悪い感覚がするけど宗馬の近くだからかそこまでの不快感はない。まだなんとか我慢できる。
「それで、話ってなんです?」
「あーそれなんですけどね〜」
ふわふわとした口調でにこやかな表情なのになんというかボクを探るような雰囲気でさらに警戒心が高くなってくる。
「もしかしてなんですけど、きみって──」
──────
────
──
夕方になり、ボクたちは計画通り音楽室に。
千織部長を先頭に、宗馬がその後ろにボクはほんの少しだけ後ろを、愛理先輩はボクの左隣という配置だった。
「さて。ここではピアノが鳴るということだったが……ふーむ。どうしたら鳴ると思う?」
「それボクたちに聞かれても……」
「部長は何かないんですか〜?」
実際、ここはなんともない。
綺麗すぎると言ってもいい。
宗馬の視線に気づいたボクは首を横に振って返す。彼の目は「なんかいるか?」といった目だったから。
「先輩、他も見て回らないっすか?」
「おや、それはどうしてだい?」
「いやーこうして待ってても何というか……」
「なるほど。確かにそれは一理あるね。ふむ。まだここにいたいところではあるけど……この時間帯であれば他にも行けるね。分かった。行こうか」
千織部長の「まだここにいたい」という言葉には概ね同意だ。何もないのが良いんだし。とはいえ、次に行くのは多分。
「部長、次はどこに〜?」
「図書室、さ」
まぁ、そうなるよね。
千織部長の先導に従って音楽室を出て図書室へと向かう。
その最中、前を歩く千織部長は一度こちらを見てから話し始めた。
「そうそう。七不思議にある人魂はどういうものだと思う?」
どういうと言われてもなぁ。
ボクはそれらしい理由を述べてみるしかないだろう。
「見回りの先生とかじゃないかな?」
「ふむ。やはりそう思うかい? 宗馬くん。きみはどう思うか聞いてもいいかな?」
「えぇ? どうって言われても俺もこいつと同じことしか分かんないっすねー」
ボクとは違い、宗馬は本当にそう思って言っている。
ボクは当たり障りのない提案で別になんとも思ってないからだ。
実際、本当に人魂があるだなんて思いたくもないしね。
「愛理。きみは?」
「わたしもマユツバかな〜って思いまーす」
「ま、そうだよねぇ。あ、ここだよ図書室」
千織部長は軽い調子でそのまま引き戸を開けて図書室へ入っていく。
鍵が開いていることをなんとも思ってなさそうな千織部長に何か言いそうになったけど、多分図書委員がいるんだろうと思い直して追随する。
「どこの本棚だろうねぇ」
「あれ、千織ちゃんだ。どうしたのー?」
「あぁ、
「そうなんだ。うん。全然いいよー」
千織部長と話しているのは上にフチがない大きな朱色のメガネをかけた女子生徒だった。
黒寄りの深い茶髪を右肩でまとめていて、どことなく柔らかい雰囲気のする女子だなと思った。口調も少し間延びしてるような感じだし。
「あれ〜? 見ない顔だねぇ」
ボクと宗馬に気づいた「まどか」と千織部長から呼ばれたその生徒はメガネの奥から覗く髪色とは真逆の明るい茶色の目がボクたちを見てくる。
「あっ、1年生〜?」
「は、はい。なし崩しだけどオカルト推理研究部に所属することになりました。えっと……」
「あたしは
今気づいたけど、この人の制服の袖長い。
だいぶ手が隠れているけど作業は大丈夫なのだろうか?
「あ、これ〜? サイズちょうどいいのなくってさ〜、でもこれでも作業はできるんだ〜」
「そ、そうなんだ……」
「ねね、きみたちはどれくらい知ってるとかあるの〜? 聞かせて聞かせてー」
円佳先輩の言葉にボクと宗馬は千織部長に目を向けるけど対して気にしてなさそうでずっと本棚を見てた。
「あ、全然気にしないでいーよー。今日はたぶん利用者きみたちだけだろうし〜?」
「ま、先輩が言ってんだし、いいんじゃないか?」
「かな。愛理先輩も良い?」
「わたしは大丈夫ですよ〜」
うーん。愛理先輩も円佳先輩もふたりしてふわふわしてるのもあってか調子が狂いそうだ。
千織部長は置いておいて、ボクたちは円佳先輩が座っているカウンターの近くに寄って、知っている限りのことを教える。
「ふんふん。なるほどねぇ〜。それじゃあ、きみたちって七不思議の怪異は信じてる〜?」
「信じてない」
「俺も同じく」
ボクは即答をすると宗馬も倣って言ってくれた。
円佳先輩はふんふんとこれまた鼻を鳴らしながら体を左右にゆらりゆらり揺らして話してくれた。
「そっか〜。まぁ、たしかに体験してなかったりするとそうだよね〜」
経験、してるんだ。ボクと宗馬は。
なんて言えるわけもなく愛想笑いを浮かべて頷く。
「ちなみにね〜、あたしは5個目が信憑性ありそうだなぁ〜って思うな〜」
「5個目……?」
ボクが首を傾げると円佳先輩はきょとんとした顔で見つめてきた。
「あれ、聞いてなかったの〜?」
「まぁその……トイレの名前に驚いてて聞いてなかったんだ」
「わぁ〜やっぱり聞いてなかったんですねぇ」
「ご、ごめんなさい愛理先輩」
やっぱりってことは気づいてたのかこの人。
なかなか鋭いな。
まぁ、廊下で話した時も鋭いなと思ったけど。
「じゃあ改めて教えるね〜?」
円佳先輩はズレたメガネをかちゃっと直しながら右手をふりふり動かして教えてくれた。
「七不思議の5個目はね〜、被服室の三面鏡で電気をつけずに覗くと、過去と未来の自分が視れる。だよ〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます