私立魁聖高等学校オカルト推理研究部
海澪(みお)
七不思議とアクシデント
1.オカルト推理研究部へようこそ
ほぼ使われていない教室棟の2階。
ボクたちはこの春から通う私立
「ここも誰もいないのは確認済みだよ」
「だからってボクと宗馬が入らなくても良くないかな?」
「確かにそうだよな。俺、出てて良いっすか?」
ボクと宗馬が入ることになった部活、オカルト推理研究部なる部の部長についついタメ口で疑問を呈してしまう。
「おや〜? きみたちは怖いのかな?」
「冷静な顔立ちなのに怖いの苦手なの可愛いわね〜」
「ぐっ……怖くなんて……」
宗馬は大体倫理的なもので入りたくはないだけ。ボクは部長と副部長にニヤニヤとされて不服ながらも頷かざるを得ない。だって嫌な予感しかないのだ。
否定したいのに、何か起きそうでしかないから。
ボクはそういった存在が視えてしまうからなるべく視ないように前髪を伸ばして今だと右目を隠すようにしてる。けど左目でその嫌な雰囲気がするのだ。
「ま、いいさ。それじゃあやるね」
部長は薄く微笑いながら5つの個室へと足を進めた。ボクは遠巻きに眺めながら宗馬から離れないようにする。
「ト〜イ〜レ〜の〜そ〜う〜び〜さ〜ん〜」
口ずさみながら一回一回ノックしながら行ったり来たりした。
「あ〜そ〜び〜ま〜しょっと。ここだね。それじゃあ3回ノックして再び、トイレの薔薇さん遊びましょう。トイレの薔薇さん遊びましょう。トイレの薔薇さん遊びましょう」
部長が行動に移すたびにボクは息を呑む。なにせ部長が止まった場所は唯一、ノックした時の音が他と違ったからだ。
「ふむ……反応なしか。やれやれ。思ったようにいかないものだ」
「これでなんともないなんて不思議ですねぇ」
「それじゃあ下か上行ってみようか」
部長と副部長はケロッとした態度でトイレを後にするのを横目に後に続こうと踵を返した時。
「──────」
「ん? 宗……ひぅっ……!?」
宗馬が何か呟いたのを聞き逃さなかった。
そして立ち止まるべきではなかった。左目で捉えてしまった存在を視てしまったから。
さらりと綺麗な黒髪に綺麗な顔立ちでまるで日本人形。薄く小さな唇がこれでもかと横に歪ませながらこちらを見ていた。
──────
────
──
4月の始まり。ボクは青森県八戸市にある私立魁聖高の校舎前で学校説明会、入学式で見たけど再度また見上げる。
校舎は綺麗で、白を基調としたもので所々レンガで見るような赤茶けた色もあり、おしゃれだと感じる。
そして制服!
青森という地方の中でブレザーやカーディガン系の制服は数少ない。そしてそれがある高校の中でも可愛くてかっこいい魁聖高を選んだ。
(それに、ここなら視ずにすみそうだし)
自虐気味にボクは苦笑して校舎に入りかけた時だった。
「よっ! おはよーさんっ」
「ぅいったぁっ!? ……………か、加減しなよほんっとにさぁ……!」
背中を思いっきりぶっ叩かれた。おかげで転びかけたけどなんとか踏ん張って、ビリビリ響く背中の痛みに耐えつつ、恨めしげに見上げる。
ボクの横に立ってバカみたいに明るげな雰囲気なのは小学校からの付き合いで
腹立たしいくらいに性格も良くモテていた。そのため、根暗に近いボクにもこんなふうに接してくるのだ。
「んぁ? おー、わりぃわりぃ。大丈夫か?」
「ボクの機嫌が悪くなること以外は大丈夫だよ」
「いやー、でもそこまで強くやったことないと思うけどなぁ。俺は」
「加減をしろって言ってんのボクは」
「お、おう……きぃつけるわ」
ボクは背中をさすりながらまったくとため息をつく。
これが彼だ。失礼な言動をすることもあるというのに、気がつけば許してしまう。それもこれも宗馬の明るさ故だろうか。
「おぉ、そうだ。午後からどっか見にいくか?」
「見にいくって……あぁ、部活見学だっけ。そこは決めてないよ。まぁいいや。そろそろ入ろ」
1年の下駄箱に向かって中履きに履き替える。
「じゃあ……あ。アレとかどうだ?」
「“アレ”? ……あー」
宗馬が親指を向けた貼り紙に納得した。宗馬はそういったものは平気なんだもんね。
「きみがそうしたいなら良いよ」
確かにどのポスターよりもおとなしめではあるが、目を引く。その部は“オカルト推理研究部”。
「けどきみのお姉さんと同じ部じゃなくていいの?」
「いやーダメだな。姉ちゃんは料理部だし、俺はてんでダメだしな」
「あぁ、そういえば」
「それに、見た感じそこまで動くような部活っぽくもないしな」
確かに見た感じ文化系の部って感じだ。
「じゃあ午後になったら行こう宗馬」
ボクはあんまり好きじゃないんだけどなぁ。というのは言わないで宗馬の顔を見上げてから彼の焦茶色の目に反射して視えた黒いナニカを見なかったフリをする。
そしてボクたちの割り振られた1年3組の教室に向かう。そのがてら。
「そういや、姉ちゃんから聞いたんだけどよ。知ってるか? “魁聖高七不思議”」
午後13時。
オリエンテーションも終わったボクたちは
「ほんとにこんなとこにあるの?」
「けどそう書いてあったけどなぁ」
先生が教えてくれたのは2号棟は1号棟の2階から繋がれた連絡通路から行けるが、職員室や生徒会室などがあるのはそれぞれ1階と3階で2階は基本資料置き場にしていることが多いのだとか。
図書室や被服室などはまた別棟にある。
「とりあえずノックしてみようぜ」
「そうだね」
2回ノックすると中から『どうぞ』とハスキーな声がした。
「おや。驚いた。先生かと思ったんだが、まさか新入生が来るとは思わなかった」
「いらっしゃ〜い。さっ、入って入って〜」
「し、失礼します」
「失礼しまーす」
中は意外と小ぢんまりしてて綺麗だった。本棚が何個か設置され、その中には様々なタイトルの本が所狭しと収まっている。
しかし、わざとか分からないけどカーテンは遮光カーテンでなかなかに薄暗い。ボクたちは一礼しながら教室に入る。
「もしかしてオカルト推理研究部に入る予定かい?」
「その予定です」
「ほんとほんと!? やりましたねぇ〜部長!」
テンションたっか。
明るめの茶髪をふわふわ揺らしながら嬉しそうに笑う女の子。揺れるリボンを見ると、色が違うことから先輩だということが分かった。
「まぁ、待ちたまえ。先に自己紹介と行こう。私は
そう言ってパイプ椅子に足を組みながらどこか賢そうな物言いで教えてくれた。
髪色は藍色で綺麗に短く切りそろえてて髪色とは反対に淡い青色の下縁メガネをかけていて、その奥から見える目は細く小顔で小柄。体つきはボクと変わらない。
「じゃあ次はわたしですねぇ〜。わたしは
間延びした語尾の人だけど雰囲気や立ち居振る舞いからとても明るくて、その場にいるだけで空気感が明るくなる人だというのが分かる。
目つきも垂れ目で笑った顔はまるで聖母マリアと見紛うほどだ。それに先に自己紹介した早ヶ瀬千織さんよりもどことは言わないけどデカい。
「じゃあ次は俺だな。俺は阪原宗馬って言います。よろしくお願いしますっ!」
「おぉ……覇気のある声だね。もしかして何かしていたのかい?」
「あ、そうっすね。実家が天台宗なんすよ」
「えぇ〜!? てことは将来お坊さんになるの!?」
そうなのだ。宗馬の家は仏教の家だ。
宗馬は「ま、まぁ」と歯切れの悪い相槌で頷いた。
「じゃあわたしとは違うのねぇ〜」
「え、先輩はなんかあるんですか?」
「あー違うの。ほら、柏崎に教会があるでしょ〜? わたし、そこでバイトをしているんですよ〜」
あぁ……そういえばそんなのあったなぁ。
「でもわたし、神様をそこまで信奉してるわけじゃないんですけどね」
ぺろっと舌先を出して戯けた。それはバイトしてるとはいえ良いのかどうか。
「ところでなんだけどね」
おっと。早ヶ瀬千織さんがボクを見た。メガネの奥から覗く髪と同じ藍色の目が興味深げに細められた。
「きみのことも聞かせてくれないかい?」
ボクはじとりと背中に嫌な汗が流れるのを感じながらなんでもない顔で笑う。
「ぼ、ボクのことは良いですよ〜。ボクはただ宗馬にここ行かないかって誘われただけなので」
「ふむ……そうなのか?」
まずいな。おそらくこの人は興味にそそられるものを追及するようなタチと見える。
「とりあえずきみのことは“くん”と呼べば良いのかな」
「えぇ〜? ちゃんじゃないんですか〜?」
こればかりはボクの童顔と華奢な体躯で助けられたな。それと三河愛理さんのコミュ力の高さにも。
「まぁ、良いじゃないですか。ボクはそれよりもこの部活がどんなことをするのか気になるんですけど、何をするんですか?」
話題をこの部活の活動理念の疑問へとすり替えることにする。今はボクのことなど良いのだ。前髪で隠れた右目の端が少しひきつってるけどなんとかなってほしい。
「ふむ」と早ヶ瀬千織さんは左眉がぴくりと動いたけどボクの提案を聞いてくれたみたいで良かった。
「そうだね。私たちオカルト推理研究部は校内にあるオカルトのものを本物かどうか推理する」
なるほど。名前のまんまだ。
「ときにきみたちは聞いたことがあるかな?」
フッと笑みを浮かべながらボクたちを見てテーブルに指を組みながら言った。
「“魁聖高七不思議”を」
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