24.約束

―湊―

真っ直ぐゴールネットを通ったボールが、地面に落ちて跳ねる。

駆け寄って行ってボールを拾った千晃が、頬に流れる汗を拭いながら笑いかけてきた。

「上手になったじゃん」

明るい声色に、胸が詰まるような思いがした。

「俺……千晃がそんな楽しそうに笑ってるの、初めて見た」

千晃は一瞬、虚を突かれたような顔をした。

その表情がすぐ、優しい微笑みに変わる。

「楽しいもん。さっき湊が楽しそうにバスケしてるの見てたら、俺もやりたくなってきてさ。だから、来てくれて良かった」

ありがと、と不意にお礼を言われる。

「今まで、本当に楽しかった。最後こうやって、湊とバスケが出来て良かったよ。東京帰っても元気でな」

「……っ」

急に別れの言葉を口にする千晃に、返す言葉が出てこない。

これでもう、終わりなのだろうか。

明日の朝にはもう、俺は帰らないといけないのに。

千晃は平気なんだろうか。

こんなにも離れがたくて寂しいのは、もしかして俺だけ―。

「……泣くなよ、湊」

困った様に、千晃の眉尻が下がる。

「泣いたって……」

「分かってる」

汗と一緒に頬を伝う涙を擦る。

「泣いたって時間は止まんないしっ……困らせるだけなのは分かってる、けど……っ俺は、千晃ともっと、一緒にいたかっ……っ」

ポケットに突っ込んだままの短冊が、くしゃりと音を立てる。

―また会えますように、なんて。そんな不確かな願い事じゃ足りない。

俺も会いたいと返してくれた、千晃のその気持ちが本当なら。

伝えたい言葉は、もっと他にある。

「俺、千晃が好きだ」

潤んだ視界の中で、千晃の表情が揺れる。

「もう会えないなんて嫌だ……こんな紙切れなんかじゃなくて、絶対また会えるって約束してよ……!」

千晃の手から落ちたボールが、跳ねながら俺の後ろへ転がっていく。

痛いくらいの力で肩を掴まれ、引き寄せられる。思わず目を閉じたら、唇を塞がれた。

息をするのも忘れて、夢中で千晃にしがみつく。

やがて唇が離れると、きつく抱き竦められた。

「……会えるよ」

耳元で、泣き出しそうな声がささやく。

「絶対また会える。俺が湊に会いに行く。だからもう泣くな。……本当に帰したくなくなるから」

いいよ、と言ってしまいたかった。

そんな訳にはいかないと、分かっているけれど。

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