第8話「出せない奴ら」
日没が迫っていた。
空は赤黒く染まり、人工灯がぼんやりと校庭を照らす。
その中で、参加者たちはパンツ一丁の姿で座り込んでいた。
誰の顔にも疲労と恐怖、そして“便意の消失”が浮かんでいた。
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スピーカーが無慈悲に響く。
「本日の摂取時間、残り30分です」
「日没までに“うんこを摂取できなかった者”は、排除されます」
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ある者は便器の前で頭を抱えていた。
ある者は食べる決心がつかず、袋を抱えて震えていた。
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“出すだけ”では意味がない。
“食わなければ”、その命に価値はない。
そういうゲームだった。
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「日没を確認」
「以下、本日“摂取に失敗した者”を処分します」
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スピーカーが次々に番号を読み上げる。
「03番・竹田」
「09番・滝沢」
「14番・杉本」
「16番・大森」
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「ふざけんなよ……!!」
竹田が立ち上がり、怒鳴る。
「俺、出したぞ!?ちゃんと出したんだよ!!」
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「排出の有無は評価対象ではありません」
「摂取されなかった者に、生存権は与えられません」
「処理を開始します」
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ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
怒声も、祈りも、叫びも虚しく、
4人の股間が内側から破裂した。
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残された袋だけが地面に転がる。
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その場に、ひとりの男が立ち上がった。
参加者番号17・高山陸(29)。
精悍な青年。痩せ型、目は赤く潤んでいた。
そして、彼もパンツ一丁だった。
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「な゛ん゛で゛……ッ!!!」
「な゛ん゛で゛こ゛ん゛な゛ッ!!ひ゛ど゛い゛こ゛と゛す゛る゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
⸻
喉がつぶれるほどの声で叫び続ける。
「い゛っ゛た゛い゛……だ゛れ゛が゛……っ!!
だ゛れ゛が゛ッ!!!
こ゛ん゛な゛ル゛ー゛ル゛考゛え゛た゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛お゛お゛!!!!」
⸻
そのとき、ぬるりと現れたのは──中居くんだった。
笑顔は変わらず、両手を軽く広げながら歩み出る。
「それはねぇ~……俺達ダベッ?」
⸻
高山は、歯を食いしばりながら叫ぶ。
「て゛め゛ぇ゛ぇ゛……ッ!!!
“俺達”って……お゛ま゛え゛ら゛……ッ!!
な゛に゛モ゛ン゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
⸻
中居くんは肩をすくめながら笑う。
「上の人たち?俺は会ったことないダベッ?」
「でも俺は、こっちの仕事が好きダベッ?」
「だって、一億円欲しさにウンコで殺し合うとか、最高の青春ドラマダベッ?」
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その直後だった。
グェッ……!!
誰かが口を押さえてしゃがみ込む。
そして――嘔吐した。
袋は開いていた。
中身は完全に戻され、地面にべちゃりと音を立てた。
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「嘔吐を確認」
「規定違反により処理を開始します」
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ドシュウウッ!!
股間が爆ぜた。
本人の体はそのまま倒れ込み、残されたのはただの空白だった。
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そして中居くんは、変わらず言う。
「俺みたいな金持ちには、一億円なんて“はした金”ダベッ?」
「でも君らがそれに群がって死ぬのは、見てて飽きないダベッ?」
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