第24話


 そのあとは、街をぶらぶらとまわった。


 駅の近くには、ちょっと古びたお店や住宅が混じって並んでいて、どこか昭和っぽい雰囲気だった。看板の文字がちょっとレトロで、色あせたのぼりが風ではためいて、なんだか逆に新しい。


 シャッターが閉まったままの店もあるけど、その隣では仕出し弁当屋さんが元気にやっていて、カウンター越しに常連さんと楽しそうに話してる。


 昔ながらの理髪店が、コンビニより多くて、ちょっと謎。そのすぐ先には、かわいいバームクーヘン屋さんがあったりして、どこに何があるのか読めない感じが、おもしろい。


 東京みたいにAIがあちこちにいるわけじゃないけど、作られたっぽさがなくて、いい意味でばらばら。


 こていちゃんが暮らしてた場所って、きっとこういう街だったって気がする。


 そんな彼女は、ぴこぴこは、ときどき髪を光らせていた。でも、それっきり。反応らしい反応はない。


 歩いてるうちに、お昼どきになった。



「なんか、あのお店、よさそうじゃない?」



 はるかさんが指差したのは、赤い看板のこぢんまりしたごはん屋さん。ガラス越しに厨房が見えて、なんだかあったかそうだった。


 中は、地元の人が通ってそうな年季の入った食堂って感じで、思ったとおり常連さんっぽいおじさんが店の人としゃべっていたけど、はるかさんのコミュ力ですんなり座れた。


 あたしはまぐろ丼。厚切りのまぐろに卵黄がのってて、つやつやしてた。



 はるかさんは刺身盛り合わせ。旅先でしか味わえないようなものを選んでて、さすがって感じ。



 お兄ちゃんはカツカレー。ここが海の街ってこと、完全にスルーしたチョイス。


 こていちゃんは、店内をきょろきょろ見ていた。
醤油の小瓶、箸入れ、手書きのメニュー。ひとつずつ、目を向けている。



 何か思い出そうとしてるのか、それとも気になるだけなのか。わからないけど、なんとなく気持ちは動いているように見えた。


 あたしはその横顔をちらちら見ながら、ごはんを食べた。


 お兄ちゃんが言ってた通り、ログと照らし合わせているのかもしれない。
いちいち訊いたらじゃまになる気がして、何も言わずにいた。


 店を出たあとも、しばらく街を歩いた。
銭湯、カラオケ喫茶、干された布団のにおい、道ばたの野良猫、路地の奥から聞こえる子どもの声。


 ぴこぴこは、止まらないままだった。
それでも、こていちゃんは何も言わなかった。


 そんな空気の中で、お兄ちゃんが口を開いた。


「夏帆」


「え?」


「たぶん、こいつはここにいたんだと思うけど、それ以上の反応はない。南の方に、もっと印象が残ってる場所があるかもしれないし……行くなら行ってもいい。どうする?」


 あたしは答えられずにいたら、はるかさんが助け舟を出してくれた。


「もう一度、浜辺に行くってのは? あそこがいちばん反応あったよね。夏帆ちゃん、自分の気持ちで決めたらいいよ。でもね、『何もなければ家で暮らす』って条件つけたの、忘れてないよね?」


「はい……」


 ふたりには、ずっと、あたしのわがままに付き合ってもらっていた。このまま何日も引っ張るわけにはいかないってわかってる。

 

 だから決めた。
次に何かがなければ、うちに連れて帰ろう。こていちゃんと、ふつうの生活を送ろう。
 


 そう、心の中で、区切りをつけた。

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