第7話

 二週間が過ぎた。


 もうそんなに経ったのか。あたしはコンビニ弁当のフタを開けながら、ぼんやり思った。
飽き飽きしてるくせに、また同じようなのを選んでる。


 テーブルの上には、空の容器が三つ……いや、四つ?
 一昨日のチキンの骨がそのままになってるのに気づいて、げんなりする。


 シンクには洗われてない皿たち。床には靴下。洗濯機の中は、もう「洗い直し決定」って感じになっていた。


「……これ、いつのだっけ?」


「さあ……月曜とか?」


 お兄ちゃんが、コロッケの湿った部分を器用に避けながらごはんをかきこむ。
朝ごはんも、コンビニ。


「……胃が重い」



「……ニキビ、増えた」


 タイミングがぴったり揃って、二人して黙り込む。


 視線の先には、いつもの定位置──リビングの隅に、こていちゃんが正座していた。
目を閉じて、背筋はぴんと伸びたまま。ぴくりとも動かない。


 よく見ると、背中から白いコードがにょろっと伸びていて、パーカーのすそをちょっとめくった腰のあたり、小さなふたを開けたところに、ぴたっと差し込まれている。
人間だったら、背骨のいちばん下あたり。ちょっと低めの位置。


 最初はあたしがつないであげたけど、今はちゃっかり、自分でやっている。家電みたいなのに、妙に愛嬌がある。


「……電気、おいしいのかな」



 あたしは、よくわからないことを口にした。ちゃんとしたもの食べてないせいか、思考がふわふわ。


「クラウドAIなら、もうとっくにワイヤレスなんだけどな」


 お兄ちゃんが、ため息まじりに言う。


「遠隔充電か、ペロブスカイトってとこだな」


 ご自慢のうんちくだ。


「ぺぺろんちーの?」


「ペロブスカイト。太陽光のやつ。クラウド型にはそれが仕込まれてんの。外歩いてるだけで、勝手に充電される」


「え、それって……外出るだけでごはん食べ放題ってこと?」


「ある意味な」


「えー、ずるい」


「あの固定には関係ない話だけど」


「でも、のんびりできて、あれはあれでいいよね」


 こていちゃん、ちょっとだけ、うらやましい。


「あんなのになりたいのかよ」


「毎日コンビニよりマシでしょ。ていうか、お兄ちゃん、こていちゃんのこと悪く言いすぎ!」


 こていちゃんは、目を閉じたまま、髪の先をぴこぴこと光らせていた。


 ……本人(?)には、悪口なんて通じてない気がする。
……それで、いいんだけど。


 でも、あたしはあの子を選んだんだ。いいところもあるよ。そう思っていても……。
クラウド型が来てくれたら、って。つい、思ってしまうことがある。


 こていちゃんが来た次の日、あたしはすぐに、両親にチャットで相談していた。


* * *


【夏帆】
 やばい。こていちゃん、家事も料理も何もできないんだけど!?
 ……え、まじで、どうするのこれ??


【母】
 あら〜(汗) 困ったわね〜。でも夏帆なら、なんとかなるでしょ〜(力こぶ☆)


【父】
 まず落ち着け。
こていちゃんは、俺のライセンスを使って日本にいるあいだに購入したものだ。
本来なら、俺たちが国内にいれば、クラウドAIの三ヶ月レンタルも追加できた。


【夏帆】
 え、今が海外ってだけでダメなの?


【父】
 そういう制度になってる。
ライセンス資格者がいる地域でしか、AIの追加や設定変更はできないんだ。
特にクラウド型は制限が厳しい。新しい契約は通らない。


【母】
 それにね〜、陽太、ライセンス取ってないでしょ?
 知識はあるくせに、あの子ったら車ばっかりいじってて、ず〜っと後回しなのよ〜(汗)


【夏帆】
 ……まじか。


【父】
 もし日本にいるうちに不具合に気づいていれば、追加申請もできたかもしれん。
でも、今さらどうにもならん。
こていちゃんと、なんとかやってくれ。


【母】
 兄妹仲良くね〜! こていちゃんといっしょに、がんばってね〜(ハート)


* * *


 お母さんの「がんばってね〜(ハート)」の文と絵文字が、いまだに効いてくるの何。

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