第30話 おぼろげな希望
――コロニー「ヒース 2nd」中央棟、気象観測室
<海水温低下のアラートが鳴り響く。スタッフたちは冷静に対応をしている>
【救助隊が来た時の様子を教えてください】
あれは6日目ぐらいだったか。救助隊が来たと聞いて、思わず叫んだよ。助かったってね。
誰かがこういった。あいつらの車両を見たが、応急修理したあとがあった。外はやばいぞ。
どうであれ、助けが来たことに間違いはない。ざわめく倉庫内に見慣れない恰好の一団がやってきた。
隊長らしき男が「コロニー『クロッカス』から来た。詳細は後で話そう」といって、挨拶もそこそこに持ってきた食料やブランケットを配り始めた。
【どんな食料でしたか?】
温かいスープと硬いパンだった。コーンスープだったと思うが、少し粉っぽい感じがした。それでも温かくて腹にしみた。
配膳を担当していた女性がおかわりもありますよ、と声をかけてきたが、俺は遠慮した。ほかに食うべき奴がいるからな。
救助隊の連中、疲れているはずなのにそんな素振りを一切見せなかったよ。
軽くて温かいテントもあった。そのままテントにはしないで、冷気を遮断する簡易な壁にしていたと思う。
【壁にしたんですか?】
すでに皆で冷気が入り込まないようにと細工はしていたんだがな。専用の素材のほうがはるかに性能が良かった。
テントとして使う案もあったんだが、見通しが悪くなるから、という理由で見送ったんだ。
救助チームは俺たちを見て、優先順位付けを始めた。
【優先順位付け?】
俺もきいてしまった。全員は同時に逃げられない。体力のない奴を優先して避難させる、と説明されたよ。
トムじいさんは若者が先だ、と言って聞かなかった。彼はいつもそうだ。自分より誰かを優先する。あの時も、じいさんは若い奴に席を譲ったんだ。
【あなたの優先順位は?】
優先順位は高かった。体力はあると思っていたが、自覚できないうちに消耗していたんだ。
はやく避難したいはずなのに俺はトムじいさんに席を譲ったんだ。妙なもんだろう? その時、俺に頭にあったのはあんな立派な人が凍えて死ぬのはあんまりだ、という考えと、覚醒して間もないころ、彼に面倒を見てもらった記憶だった。
【席を譲った時、周りの反応は?】
誰も何も言わなかった。
トムじいさんは最初、断った。君の方が若い、君が先に行け、と。
俺は言い返したんだ。トムじいさん、あなたがいると俺やほかの若い奴も安心するんだ。だから、先に避難してくれって。
じいさんは黙った。それから、ありがとう、とだけ言った。
周りの連中は静かに見ていた。
俺は強がって笑った。すぐに次の救援隊が来る、ってな。
【本当に――】
すべて言わせないでくれ。
間違ったことはしていない。でも、希望が見えた後の方がきつい、と悔やんだのも事実だ。
簡易ベッドに座って優先順位付けの様子をしばらく見ていたが、何か耐えられなくなって、俺はブランケットを頭からかぶって簡易ベッドに横になった。
【そのあとのことを聞いてもよいですか?】
トムじいさんは元気にしている。
俺はそのあと凍傷になったが……再生治療で元通りだ。たまに傷が疼くが、名誉の負傷というものだろう。
次の救援隊はすぐに来た。だから、俺はここにいる。
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