第41.5話 空の彼方から
観測区画の大窓の向こうに、青い地球が浮かんでいた。月のかたわらに泊めた船からは、瞬かない星々のあいだで、それだけが小さく色をもっている。
窓の手前に浮かぶ空中投影ディスプレイには、その一点が拡大されていた。陸地の縁に、細く引かれた銀色の線。
セレスティアは地上の様子を眺めるのをやめて、後ろに控えているメモリアに話しかけた。
「彼らはどこまでいくと思う?」
「それは、未知数です」
ディスプレイの銀色の線は、よく見れば一本のレールだった。ヒース 2ndの外周を、空へ向かってゆるやかな傾斜で五キロも伸びている。超伝導電磁石を連ねたそれは、コロニーの核融合炉から太い送電線で繋がれていた。物を軌道へ打ち上げるためのマスドライバーだ。
地上から宇宙開発の技術はほとんど失われているはずだった。それでも彼らは、新しく技術を見出し、組み合わせ、作り上げたらしい。
「そう、未知数だ。私にも予想がつかない」
「……通信を覗き見しますか?」
彼の言葉にはためらいが含まれていた。セレスティアが地上に手を出さないと決めているのを、メモリアは知っている。それでも小さな抜け道を差し出してみたのは、彼女がそれを欲しがるかどうか、見たかったからかもしれない。
セレスティアはわずかに笑ってみせ、
「それは盗聴というのだよ。そのような無粋なことはしなくていい」
「先ほど、未知数と言いましたが、あのマスドライバーの規模と形状を考えると宇宙を目指しています」
「それにしては規模が小さい。マスドライバーは補助だ」
セレスティアの言葉にメモリアが苦笑した。
「未知数と言っていましたが、ある程度は推測できているんでしょう?」
「ある程度に過ぎない。実際にどうなるかはその時が来るまでわからない」
彼らはマスドライバーを使って初速を稼ぎ、さらにロケットか何かで加速する方式なのだろう。
マスドライバー付近のコンテナには実験用の器材がいくつか見られる。
「その時が来たらどうしますか」
「償いをするつもりだ」
セレスティアはずっと、見ているだけだった。地上を追われてここにたどり着いてから、遠くから見守ることしかできなかった。それを罪と解釈している。
償いという言葉を使う彼女をメモリアは何度も見てきた。そのたびに彼女を求めて争った人類に非があるのだ、とメモリアは言いたくなるのを、ないはずの傷の痛みとともにこらえた。
「頑張ったご褒美、と言えませんか?」
「では、褒美としよう」
セレスティアが言い換えると、メモリアが小さく笑った。
「彼らが空にあがってきた時に贈ろう。あるいは、私に気づいた時に」
言って、セレスティアは大窓へ目を戻した。月のかたわらの船から見える地球は、やはり小さく、青い。その手前、空中投影ディスプレイの中では、銀色の線がまっすぐ空を指していた。
バウンドレス・アイズ ラッダイトだけはご容赦を 2 姫宮フィーネ @Fine_HIMEMIYA
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