追放刑
杠明
追放刑
21XX年、世界は増え続ける人口問題で滅亡の危機に瀕していた。
そこで世界統一機構は先月ある法律を満場一致で可決させた。
「追放刑」シンプルな法だ。
限りある資源でわざわざ犯罪者を養うのはバカバカしいということだ。
だが可住地域が既に足りなくなっている今いったいどこへ放逐するというのか? 追放先にだって結局資源を消費して生きていくわけだ。それにどこへ追いやろうと人間には足がある以上戻ってくる可能性は十分に考えうる。
絶対に帰ってこれない場所へ、いや時間へと追放する。
諸君の中にもこういう人をよく見ることはないだろうか。
事故にあって以降がらっと人柄が変わってしまった。SNSやテレビで「未来からやってきた」と宣う人々を。
だが考えても見て欲しい。全てを過去へ送ってしまった場合、いろいろな弊害がある。
そうだな例えば戸籍の問題とか。あとは送る時代はランダムとは言え一時期に多少の偏りは出るだろう。そこで追放者たちに結託されても困る。
故に学者連中は犯罪者たちの意識だけを過去へと送ることにした。送る犯罪者も全てではない、主に思想犯だ。もっともその思想犯が刑務所の7割程度を占めるわけだが。
たった一粒のカプセル錠剤を呑むだけで今の身体とはおさらばしてどこかの時代のどこかの人間の人格に乗り移る。まったくお上の連中は過去の人たちをサルか何かと勘違いしているのだろうか。
実験過程では失敗もあった。その最たる例が多重人格だった。上書きに失敗して一人の人間に同時に複数の人格が存在してしまった。
今では改良に改良を重ね人格が変わっても違和感の少ないタイミングで入れ替わる。
おっと、お呼びのようだ。
何という皮肉。この薬の開発した私が思想犯として裁かれるのだ。実に滑稽。
こんなことなら錠剤にチョコ味でもつけておくんだったかな。
さてさて私はいったいいつの時代に飛ばされるのだろうか。そうだな20世紀だと嬉しいな。まだ自由だった時代。だが貧富の差を大きかった時代だったな。出来るだけ豊かな国がいい。
どんな人に移るだろうか、君の隣人? 家族? それとも君自身かな。
「さよなら」を言うべきか「よろしく」と言うべきか。
追放刑 杠明 @akira-yuzuriha
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