こうして弟は人間になった(アデラール視点)
歳の離れた弟、アロイス・モンテルランはそれはもう冷たい子だった。
言葉は少なく、にこりとも笑わず、民からは不気味がられ、両親を大いに不安にさせた。
欲しいものもなく、私や1番目の弟アレクシがこの時のアロイスくらいの年齢の時はあれが欲しい、これが欲しいとワガママ放題言ってそれはそれで両親を困らせていたが、それでもあの時の両親に言わせてみれば「ワガママで可愛かった」そうなのだ。
民との交流を大事にする我が家にとって民を不要に怖がらせる王子の存在は悩みの種だった。
それに父と母は珍しく恋愛結婚をしており、恋愛至上主義のようなところがあった。このままでは家族以外誰からも愛されずに生涯を終えてしまうと母はアロイスを思い毎日のように泣いていた。
このままでは良くないと、父に相談した。
スオムレイナムで行われる式典。そこに招待されていたのは父上と父の後継者である私だけだったが、なんとか頼み込んで弟を来させることはできないだろうかと。
父もダメもとでスオムレイナムに手紙を送った。ありがたい事に数日後には弟の分の招待状が届いた。
当日もアロイスの目には何も写っていなかった。それでも人がたくさん集まるこの式典に行けば何か変わるかもしれない。
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この日案内してくれるのは若い騎士の少年だった。今年成人したばかりだという彼は柔らかい笑顔を向けてくれた。
それでも何も反応しない弟を見て不安そうにしていた。
「ごめんね、弟はこういう子なんだ。冷たく見えるかもしれないけど悪い子ではないんだ」とフォローしようと弟を見た時、いつもと様子が違って見えた。
あの何も写さなかった黄金の瞳はハッキリと騎士の少年……ダミアンを写していた。
「ごめんなさい。貴方がとても美しかったので見惚れてしまいました」
などというから驚いて父上と顔を見合わせてしまった。
その後はダミアンに大変懐き、別れの際はとても大変だった。初めてのワガママがこれとは……。
「お前自身で説得しなさい」と父に言われたアロイスの目はもう以前のようなものではなかった。
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そこから帰宅するなり「スオムレイナムに行くにはどうしたらいい?」「外交官?じゃあそれになる!」と行動的になるから母もアレクシも驚いていた。母が何があったのかとアロイスを問い詰めれば
「私はダミアンをウルトリエに連れてくるのです!」
と言うのだ。式典であったことを説明すると母は感激のあまり泣き出した。
しかしアロイスの言うダミアンの事を調べていくと彼の家には良くない噂がたくさん出てくる。
ダミアンの事を諦めるように説得するべきだろうかという話も出たが、熱心に外交官を目指すアロイスを止められる者は誰もいなかった。
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こうしてアロイスは外交官となりスオムレイナムに向かってはダミアンに愛を囁きウルトリエに来るよう根気強く説得する男になっていた。
幸いにもウルトリエは同性婚を認めている。アロイスは第三王子だから跡継ぎも必須ではない。
民とも積極的に交流するようになり、第三王子殿下が変わられた、恋をなさっていると大きく印象が変わった。
こうして弟は恋を知って人間になった。
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