説得
「ダミアン、お前は相変わらず美しい。この世の美しきものは全てお前には劣るだろう」
「……懲りませんねアロイス殿下」
初めての出会いから10年くらい経った。私はあの出会いから1番ダミアンに会える可能性がある外交の仕事ができるようにそれはもう勉強した。家族は揃って「アロイスが何かに打ち込んでいる!」と喜んでいた。……そんなに無気力な子供に見えていたのだろうか。
そんな訳で無事外交官として仕事を任された私はスオムレイナムでの仕事が入るたびにお付きにダミアンを指名し会う口実を作った。私の熱心な説得を皆知っているからか最近は「来られるのであればダミアンをお付けしますね」などと言われる始末。分かっているではないか。
10数年経ってダミアンは記憶通りの大変美しい青年になった。スラリと伸びた四肢に鍛えられた肉体、伸ばしたらさぞ美しいだろうなと言ったのを覚えてくれていたのか絹のような髪を一つにまとめている。
「随分伸びたな……私の言ったことを覚えていたのか?」
「お気に召していただけるのは幸いですが伸ばした髪は貴族のステータスになるそうなので」
頑なに認めない。しかし顔は紅く色付いている。ダミアンが素直に好意を表現できない事はもう知っている。顔を赤くしながら言い訳を並べるその姿が愛おしい。
「それでウルトリエに来る気にはなったか?」
「またそれですか。私はスオムレイナムの騎士です。……申し出はありがたいのですがこの国を離れるわけにはいかないのです」
「ふむ残念……気が変わったらすぐに連絡するように」
今日も来てくれなさそうだ。それはいつもの事だが正直焦りがある。
「フレ譚」の本編はもうすぐ、または既に始まっているだろう。最近ではフレデリクの活躍が自国にいても聞こえるくらいだ。ダミアンも暗い表情を見せたりため息の回数が増えている。ほら今もため息をついた。
「お前はまた友人の事を考えていたのか?」
ぱっとこちらを見て申し訳ございませんと続ける。暗い顔をしたダミアンを抱き寄せると騒ぎ始める。外交官と騎士では体力差もある。いくら身分が違えど本当に嫌なら振り払っても許されるのにしない。
「久しぶりに私が顔を見せたのだ。私の事だけを考えるように」
腕の中のダミアンが頷き、場には甘い空気が流れる。
ウルトリエの外交官様がスオムレイナムの騎士に熱心で、騎士も誘いを断りながらも決して嫌がっていないのは周知の事実となっている。きっと周りの人間が気を遣ってくれているのだろう。え?遠巻きにされてるだけ?まあ何でもいい。2人の場を邪魔さえしなければ……
「ダミアン!ここにいたのか」
来た。喧しくて空気の読めない奴。愛しいダミアンに影を落とす存在。
「フレデリク……」
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