思い出した
俺……いや私、アロイスはこの世界を知っている。
この世界は前世で見た物語と同じだ。前世の事全てを思い出せる訳ではないが記憶の中の物語の流れとこの世界の情勢が一致する。
そして目の前で不安そうに私を見る青い目の少年を知っている。
「殿下、どうかされましたか?」
記憶の中より随分幼いように見えるが見間違えるはずもない。
彼は「ダミアン」だ。
色白で陶器のような滑らかそうな肌、宝石のような深い青色をした瞳、サラサラの銀髪は太陽の光を反射しキラキラと輝いている。
天使だ。私は天使に出会ってしまったのだ。
「ごめんなさい。貴方がとても美しかったので見惚れてしまいました」
好きな人を前にうっかり歯の浮くような言葉を並べてしまったが子供の言うことというわけで許してほしい。そしてそう言われた目の前の天使は顔を真っ赤にしている。可愛い。好き。
「……ご冗談を」
それでは、と先頭を歩いていく。
「フレ譚」の主人公とダミアンの使える国「スオムレイナム王国」。私はその隣の「ウルトリエ王国」の第三王子であり、今日はスオムレイナム王国の国王が主催する式典に参加している。そして客人の案内や護衛を騎士団がしてくれるのだが、ウルトリエ王国の客人を担当している騎士の1人がダミアンのようだ。
話を聞けばつい最近成人したばかりだという。それなのに周りの大人に混じって仕事をこなしているのだから立派なものだ。
「ウルトリエ王国に興味がありまして、今回こちらの担当を希望したのですが、気さくな方で良かったです」
そう言って私と私の家族、父と兄に笑いかけた。天使の笑顔、眩しい。
興味があるというのは本当のようで、ウルトリエ王国の事をよく調べており、「まだ若いのに立派だ」と父も兄も気を良くしている。ダミアンは嬉しそうに微笑んでいる。
――――――――――――――
式典が終わり、ダミアンとお別れの時が来てしまった。
「お別れなんてやだ!一緒にウルトリエに行こうよ!」
王族に相応しくない振る舞いで周囲の人全員を困らせる事なのは分かっていたが、ダミアンをこのまま置いておけばいずれあの物語と同じ悲劇を辿ってしまう。
「こらアロイス。騎士殿は忙しいのだ。引き留めてはならん」
父の説得は尤もだがここで引き下がるわけにはいかない。
「アロイス殿下、勿体無いお言葉です。私もウルトリエ王国の事や貴方の事を知れて良かったです。本日はここでお別れですがウルトリエとスオムレイナムは友好国です。私たちはまた会えますよ」
ダミアンにそう言われてしまっては返す言葉がない。ここは大人しく引き下がろう。
「いつか絶対ウルトリエに来てもらうから」
そう言い残して私は馬車に乗り込んだ。
――――――――――――――
「お前は随分あの騎士が気に入ったようだな」
馬車の中で父が微笑ましく見ている。
今思えば「アロイス」は随分落ち着いていて可愛げのない子供だ。言われてみれば物をねだった記憶はない。
そんな子供が初めて何かを気に入りワガママを言ったからか行動の迷惑加減の割にあまり叱られなかった。
「父上、騎士1人連れてくるくらい簡単だったのでは?」
「連れてくる事自体は簡単かもしれないが人1人の仕える国を変えるのだ。やるなら時間をかけて慎重にするべきだろう」
兄の援護は嬉しかったが父の言うことは正しい。
ダミアンのスオムレイナムへの忠誠は強い。無理に連れてきてしまえば彼のメンタルに深刻な影響があるだろう。
「お前がどうしても彼が欲しいならお前自身で説得して来てもらうのがいいだろうな」
幸いにもまだ時間はある。主要取引国であるスオムレイナムに行く機会も沢山あるだろう。ダミアンが闇堕ちしてしまう前に連れて来れば良いのだ。
私のやる事は決まった。
遠ざかり今は見えなくなったスオムレイナムを見る。
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