第3話
午前8時。
僕は泣きじゃくる由佳を連れて、食堂に戻った。食堂では全員が十人掛けのテーブルに座っている。それに倣って僕と由佳もテーブルに座る。
皆一様に緊張した面持ちで下を向いていた。
「恒星が電話してる間に、みんなで一度陽菜の部屋に行ってきた。それで、警察と救急は?」
湊が一人、顔を上げて聞いてくる。
「土砂崩れが起きたらしくて、二週間はここに来れないらしい」
下を向いていてもわかるほど全員が肩を落とした。
「こんな山と海に囲まれた場所に別荘なんか作るからいけないんだ」
啓介がボソっと吐いた。
「そんなこと言っちゃダメだよ!私たちが望んでここに来たんだし」
恵梨香がすぐさま啓介に怒った。
「ああ、すまん」
怒られた啓介は心ここにあらず、という感じで受け流す。恵梨香がさらに詰めようとしたタイミングで、湊が手を叩く。
「一回状況を整理しよう。陽菜はこの中の誰かに殺されて、警察と救急は来れる状況にない。合ってるね?」
湊は確認を取るように僕の方を見る。僕は頷き、次の言葉を待つように湊を見つめる。
「ありがとう。脱出方法については、この建物の横にある舟屋に、小さな船が一隻置いてある。それを使えばここから脱出することはできる」
みんなが希望の光を見る様に湊へ視線を送った。
「しかし、生憎の大雨で、今、海へ出るのは自殺行為に等しい。僕たちは結局、明日の昼、早くても明日の朝まではここを出ることができない」
陽菜の死体を発見した時とは打って変わって、湊は冷静に、そして慎重に現状を説明していく。
「俺は犯人と一緒に船に乗るなんて御免だぞ」
水を差すように啓介が言う。しかし、それは内心で全員が思っていたことだ。
「犯人は分かりきっている」
そう呟いたのは由佳だ。彼女はゆっくりと一人の男を指さした。
「あいつよ! 大雅よ! 私と伊藤君が陽菜の部屋に向かった時、階段で彼とすれ違ったの」
指をさされた大雅は表情を変えず、由佳を見据えている。
確かに、階段ですれ違ったことを考えると一番怪しい人物は彼だ。しかし、あの血だまりは、もう赤黒く変色しており、殺されてから時間が経っていたようだった。
「あんたがやったの?」
恵梨香が確かめるように聞く。大雅は一度、首を回してから答える。
「違うぞ。一階のトレーニングルームを使っただけだ」
「嘘よ! 大雅が犯人なのよ!」
「由佳、そんなに俺を犯人に仕立てあげたいのか? それは自分が犯人だからか?」
「そこまでにしてくれないか?」
僕は横から口を挟み、言い合いを止める。
「僕が二日間の間に犯人を突き止める。だから、みんなに協力してほしい」
全員が悩みながらもうなずき、承諾の意を示した。当然だ。由佳や大雅のように目立てば、犯人だと疑われる可能性が高い。
「まず、陽菜の隣には犯行に使われたと思うナイフが置かれていた」
僕はハンカチに包んでおいたナイフを見せる。
「このナイフはご丁寧に刃の部分が柄の中にしまえるようになっていて、場所はそんなに取らない。このナイフについて何か知っていることがある人は居る?」
誰からも手が上がらなかった。
「じゃあ、次は荷物検査をしたい。二人一組を作って、それぞれの荷物を検査してくれ」
由佳は恵梨香と組むことになり、啓介は、大雅から逃げる様に湊と組んだので、僕が大雅と組むことになった。
これで証拠が出てくると楽なんだが……
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