メガネ屋 クセ強客の人物ファイル
☆白兎☆
#1 入れ墨男
入れ墨男が来店。
「いらっしゃいませ。本日は新しいメガネのご検討でしょうか?」
私が声をかけると、入れ墨男は目も合わせずに店内を突き進む。黒の半そでTシャツ、黒の短パン。髪は五厘刈り、襟から上の首、シャツの袖、短パンの裾から出た肌、そして、頭皮にまでしっかりと入れ墨が施されていた。
私の声は全く無視して、店内に並べられたメガネフレームを流し見る。入店した客には声かけが店の決まりだが、これ以上の声掛けは迷惑だろうと、
「では、どうぞごゆっくりご覧ください」
と声を掛けて、私はその場を離れた。
インパクト強めの容姿で、背の高さはそれほど高くはなく、筋肉質な体系で見た目には二十代前半。職業は一体なんだろう? きっと堅気じゃないな。などと、つい、憶測が頭をよぎる。もうこれ以上、この入れ墨男に関わりたくないと、私はカウンターへ入った。
入れ墨男が暫くフレームを見て回っていると、店員の川さんが、無謀にも入れ墨男に声を掛けに行った。
ああ、この人はそういう性分だった。何を話しているかは聞こえないが、きっと、どんなフレームを探しているのかを聞いているのだろう。
すると、あんなにもぶっきらぼうだった入れ墨男が笑みを浮かべて答えている。どういう事だ? 川さん、何かの魔法でもかけたのか? それとも、入れ墨男は、私に声を掛けられたことが気に食わなかったのか? どちらにしても、関わりたくないと思っていたから、これはこれで良しとしよう。というか、私のこの偏見が表情に出ていたのだろう。
後日、この入れ墨男がメガネの受け取りに再来店し、副店長の山さんが対応していた。そこでも全く問題なく、普通に受け取って帰って行った。
案外、普通の人だったのかもしれない。
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