第5話 先輩からのバイト斡旋
ソウちゃんと俺は同じ大学に進学した。同郷の高校から丸神大学に進学した者は少なかった。俺たちの他には女子が1人経済学部に入学したはずだ。ちなみに俺とソウちゃんは工学部に入学。俺はシステム工学科、ソウちゃんは化学工学科にそれぞれ入った。
丸神大学に入学して間もないある日、教養学部のカフェにて同郷の先輩との顔合わせがあった。同郷同士でアルバイトを引き継いで行く。おかげで俺たち新入生は探さなくても割のいいバイトを先輩から引き継いでもらうことができる。主に家庭教師、塾講師などである。先輩が築いてきた信頼を裏切らないようにして後輩へと引き継いでいかないといけないから責任も重大なんだけど。
「えっと、広田君と、中山君、だよね」
「「はい」」
ソウちゃんはバイクを持っているということもあって家庭教師と塾の講師を掛け持ちすることに決まった。俺だけど、俺は小さい頃から対人関係が苦手でいつもソウちゃんに手を引かれて人の中に入っていくような子供で、その状況は今でもあんまり変わっていない。だから家庭教師とか塾講師なんて全然やれる気がしない。できたら一人で黙々とできるような仕事が希望だった。
「じゃ、バーのウエイターなんてどう?」
「バーのウエイターですか……」
「学校が終わってから終電までのお仕事だから移動の足は電車でいいし、お客さんの相手はマスターがしてくれるから接客は基本的にないし皿やグラス洗ったり注文とったりドリンク運んだり会計とか裏方の単純作業だけだから中山みたいな性格でも大丈夫だと思うよ」
「夜のお仕事だから家庭教師ほどじゃないけど時給結構いいし」
「それにここのマスターさ、かわいい男の子が大好きだから広田より中山みたいなタイプの方が絶対気に入られると思う!」
「ケンジに接客業はムリなんじゃないか? 俺と一緒に塾の講師とかの方がよくないか?」
あれ? ソウちゃん不機嫌になってる。なんで?
「広田、ちょっと過保護じゃね? まあ、やってみたらいいと思うぞ。ダメそうならそのとき考えりゃいいから」
「接客はマスターがやってくれるらしいし、大丈夫だと思う。俺、やってみるよ」
ソウちゃんが渋い顔で何か言いたそうにしたけど結局そのまま何も言わないで顔を
「ケンジがいいって言うならいいけどよ」
「ところでさ、君って『中山』って名前だっけ?」
「高3のとき母が再婚して名前が変わったんです」
「ああ、なるほど。なんか違う名前だったなーって記憶あるんだけど」
前の名前は正直好きじゃない。できたら口に出したくない。俺はあいまいに微笑んでごまかそうとした。先輩も特段興味がなかったらしくそれ以上突っ込んでくることはなかった。
「じゃあ、先方には連絡しとくから、報酬とかバイトの日程とかは自分で交渉してくれな。それからなんかトラブルがあったら俺らにも連絡すること。いいな?」
「「はい!」」
アルバイト先の連絡先と先輩方の連絡先を教えてもらって、俺たちの連絡先を交換して解散した。
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