第4話 涙の理由

 倒れた暴徒たちを見渡し、アークは端末を操作しながら淡々と告げた。


「不法集団による暴力行為、財産略奪、公共市場の営業妨害──刑法第八十二条、及び復興秩序維持令第十一条により、拘束申請済み。再犯防止措置を講じる。」


 それを聞いた市民たちが、押し殺していた感情を爆発させた。


「ざまあみろ……!」


「お前らのせいで、何度店が壊されたと思ってんだ!」


「きっちり罪を償わせろ!」


 怒りと罵声が暴徒たちに浴びせられる。

 しかし、ただ一人。

 リリだけは倒れ込んだゴドーへと、そっと歩み寄っていった。


「お兄ちゃん……ちょっと待ってて。」


 アークは足を止める。

 補佐官である妹の意図を読みかねていた。

 リリは、慎重に、けれどまっすぐな瞳でゴドーの前にしゃがみ込んだ。


「ねえ……どうして、こんなことをするの?」


 ゴドーは目を伏せ、鼻で笑った。


「チッ……ガキが……。黙ってろよ。ウゼェんだよ。」


 それでもリリは怯まず、真剣な眼差しを向け続ける。


「ねえ、お願い。わたし、知りたいの。あなたは、どうして……」


 その声に、ゴドーの視線がゆっくりとリリへと向けられる。


「……なんで、そんな目で見るんだよ……」


 男の声が、少しだけ掠れた。


「俺だってな……最初からこんなんじゃなかった……」


 ぽつり、ぽつりと、言葉が零れていく。


「大戦のあと、全部が壊れて……仕事も、家も、家族も……食うもんさえ手に入らなくてよ。何かを押しのけなきゃ、生き残れねぇ……」


 拳を強く握りしめ、歯を食いしばるように顔をしかめた。


「最初は、ちょっと物を盗んだだけだった……気がついたら仲間を集めて……今じゃ……こんな……」


 リリはそっと、その大きな拳の前に、小さな手を差し出した。


「……でも、まだ間に合うよ。」


 その言葉に、ゴドーの顔が歪んだ。


「……なんで……なんでそんなこと……!」


 涙が、止まらなかった。

 仰向けに倒れたまま、彼は拳で顔を覆い、泣いた。


「ぐ……うっ……すまねぇ……ほんとに……すまねぇ……!」


 やがて、ゴドーはよろよろと立ち上がり、店の親父の前に歩み寄る。


「爺さん……悪かった……あんたの物、壊して……殴って……すまねぇ……」


 誰も、言葉を返せなかった。

 市民たちは、ただその光景を見守るだけだった。

 そして、アークが静かに歩み寄り、一言だけ告げる。


「……予測外の展開。行動原理。その結果を観測。」


 彼の声には、どこか以前にはなかった微かな揺らぎがあった。

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