第28話
「落ち着いた?」
「……ん゛」
「鼻水出てるし」
「っ!?」
慌ててティッシュで鼻をかむ。
鼻水垂れ流して泣いてた俺を気にした風でもない凛がまた先に立って歩く。
こんなところで一人で立ってるのは嫌だから、小走りで追い掛ける。
「おい寿人!」
ほらまたお兄ちゃんを呼ぶぅ……
ちょっとムッてなったけど膨れるのも格好悪いから黙ってるけど。
『あのね、凛』
「あ?何?」
『俺は恭平のエフェクトなの。お前俺の事気安く呼ぶけど、ダメージいくのは恭平なの!』
凛の顔が少し強ばった。
お兄ちゃんは俺を襲った“神の悪意”の残り香みたいなものらしいんだよね。なんだっけ?影法師?そんな感じ。
Braverの能力を使う時みたいな、激しいフラッシュバックは無いけどそれなりに体力は消費するらしい。
“神の悪意”ってモノ自体が超特級の厄ネタだって虎徹が嫌な顔をしてたっけ。
たまたまお兄ちゃんの姿形をとってるから拒否感はないけど、ゾゾゾ……って背中を這い回る嫌悪感はもう本能からくるものらしくてなくなってくれない。
『自分で気が付かない内にダメージが蓄積して、いきなり情緒不安定になったりしちゃうからあんまり俺に頼るな』
「でもさー……」
『でもじゃないの!君達パートナーでしょ?』
現場に二人で乗り込んでるんだから、まぁそうだよね。
半人前にすらなれていない俺がパートナーとしては力不足を否めないから凛はお兄ちゃんに頼るわけで。
そんなの言われなくてもわかってたから面白くなくって、でも事実だから黙ってたんだけど。
「Braverったってさぁ、かなり個人差あって向き不向きだってあるじゃん?尖った性能の能力持ちだと不向きの度合いえげつねぇし」
凛が発した言葉は俺が予想してたのと少し違った。
役立たずとか言うタイプじゃなさそうだとは思ってたけどなんか、違った。
俺の斜め後ろに立つお兄ちゃんが小さくため息を吐いた。
「サーチがクオンの負担になるなら寿人がしてやりゃ良いと思うし、さっき見たなんかクオンの能力は発動自体でダメージでかそうだし」
『でかそうだし?』
「俺の勘が当たってんなら、寿人に頷いてもらってきゃ良いじゃん」
勘!?
勘で進んでたの?!
そりゃあ俺は全く感知能力や探査能力はないけど、凛は勘で進んでたって言った!?
あんな自信満々そうに歩いてたのに、嘘だよね!?
『……吐いちゃえば楽になるよ?』
ちょっと低い声。
お兄ちゃんに睨まれたらしい凛がちょっと口元を引きつらせてからプイッて視線を逸らした。
お兄ちゃんって優しい顔してるけど睨むといきなり迫力出るんだよね。
「……クオンが心配だから!」
『へぇ?』
「無理させたりとか、嫌だったの!!もぉいいだろ!!!」
俺の手をガッ!て握って凛はお兄ちゃんから逃げるみたいに足早に校舎を突き進む。
でもね、凛。
お兄ちゃんは俺に憑いてるんだよ?
俺を連れて行くってことはお兄ちゃんから離れられないってことなんだけどな。
『なになに?凛てば恭平に惚れた!!?』
「バッ!?ばかっ!!クオンは男だろ!!!!」
あ、耳まで真っ赤。
なんか、嬉しい……かな?
うん。
凛が俺を好きだったら嬉しいかもしれない。
そういう経験って今までなかったけど、人に好かれるのは嬉しいと思う。
テレビとか殆ど見てこなかったし映画とか小説とか、マンガもか。そういうのって友達と話す為のツールじゃん?そういうの必要なかったから。
かといって子供でもないから恋愛っていうのがあるって事は知ってる。
普通は男女間で付き合うんだよね?
『ダメダメダメ!!!まだ恭平に恋とか早いから!しかも相手が凛とかお兄ちゃん絶対許さないからね!』
「相手が俺じや許さないとかどういう意味だ!あ~……もぉっ!寿人黙ってろって!!!」
『これ以上二人切りなんてさせてらんない!直ぐにでも“神の悪意”殲滅させてやる!!』
「だぁら止めろ!クオンの負担になる!!クオンじゃなきゃダメな相手までは戦うのは俺だっ!!!!!!」
なんだか楽しそうだね。
昔、お兄ちゃんと凛ってこんな風に過ごしてたのかな。
お兄ちゃんが“神の悪意”を直ぐに殲滅するっていう表現が大袈裟だとしても、宇津宮のことも気になるし早くWODSに戻れるのは良い事だよね。
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