第6話

【西尾eyes】





 不幸も、幸せも、決めるのは自分自身なんだって思ってる。

 そう思わなくちゃとてもじゃないけどやってられないし、呑み込まれてしまうから。

 どうしたって抗えないものは存在する。



『だいきらいなかみさま』



 宇津宮の声。

 もう俺には届かない声。

 触れられない髪。

 撫でられない頬。

 掴めない腕。


 それでも。


 ぎりぎりのところで消失だけは免れた。

 有難いことにその姿を見る事は出来る。

 触れることは出来なくても、喜怒哀楽を浮かべている宇津宮が目の前に居る。

 辛うじてでも生きていてくれている。


 それだけで幸せだと思う。


 全てを定めるのは自分の心。

 今が幸せだと思えば幸せだ。


 宇津宮をいつか生身の体に戻してやる為に。

 俺に出来る事ならなんだってしてやる。

 その為にWODSに入った。

 どうせ死ぬはずだった命だ。


 宇津宮の為なら、死んでも良い。





「気になる?」


 かなり近くで声が聞こえてハッと意識を戻した。

 明石と宇津宮が校門を潜ったのを見届けてから、高校の裏手へ回り込んで中を窺っていたとこだったから内心驚いている。

 変質者と間違われたら堪らない。

 焦ったら不審者丸出しだからと思うが小心者だからどうしても平静を装えない。


「あの、これは……って、角田か」

「こっちでサポートするって言っただろ~」


 にこやかに笑う角田に見つめられて気まずくて笑って誤魔化すしかない。

 にこやかにって、普段から微笑んでいるのが角田のデフォルトの表情だから腹の中で何を考えてるのかは全くわからないけどな。

 俺は本来なら虎徹と本部で留守番のはずだった。

 情にもろい虎徹を泣き落としてここへ来てることなんて角田はお見通しだろうし、角田の立場上、苦言を呈するくらいしても当然ってところなんだけどな。


「らしくないね?」

「ん~……まぁ、気になってな」

「宇津宮が?」

「それもあるけど、ターゲットの方だな」


 宇津宮がっていうのはまぁ、そうっちゃそうなんだが。明石が一緒ならお互いに補佐し合って大抵のことなら何とかすると思う。

 始終怠そうな明石だけど、その腕は信用してる。

 それより、訳ありなんだよ。

 ターゲットとは直接は顔を合わせた事は無い。意図的にそういう風にしてきた。会っても碌なことにならないからな。

 でも、これでも血縁者なんだ。

 やっぱ気になるだろ?


「まぁ、好きにしなよ」


 飄々とした空気を纏う角田はそう言うと校舎へと視線を向けた。

 どうやら叱られはしないらしい。





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