ジェンダーフリーな麗人の先輩と道場破りに行ってみた!

稲富良次

第1話 「ジェンダーレスな先輩」

僕は大学生向けの寮に住んでいる。

表向きは男子寮なのだが、どう見ても女性の先輩が住んでいるのでややこしい。

いわゆる今でいうところのジェンダーレス、体は男でも心は女性という方で

薫さんという。

もちろん面と向かって「オカマ」とか「男女」は言われないが、いわれのない

差別は受けてきたらしい。

これで不細工男なら笑って済ませられるのだか、結構というか…

だいぶ見目が麗しいので相当ややこしい。

ローマの休日のオードリー・ヘップバーンかショートカットの頃の山口百恵かと

いうくらいの美貌で気風がよくて竹を割った性格であれば、当時の僕たちが隠れて

親衛隊を結成していてもなんら不思議ではない。

そんな薫さんが「心霊現象同好会」なるものを創立したのであれば

僕としても入らざるをえない。

買い手市場なので面接なるものがあった。

腐れ縁の久保田も応募したようだ。

「あなた何ができるの」

「はい鼻がききます」

「鼻?」

「はい心霊現象の起こるところの臭いを嗅ぎつけられます。

いわゆる死臭をかぎ分けられるのです」

「霊視じゃなくて霊臭ね。

わたし霊視できるから感覚器官が二つになるから助かるわ、合格」

「ありがとうございます」

次は久保田だった。

「あなた何ができるの」

「はい運転免許持ってます」

「車は」

「白のフィアットの中古を所有しています」

「何人乗り」

「四人、無理すれば五人乗れます」

「足は必要よね、合格」

「あ、ありがとうございます!」

あと何人か応募があったが足切りされた。

霊感があったり久保田よりいい車を持っているやつもいたが先着で決めたようだ。

僕たちを優先してくれたのかな。

ただ単にめんどくさかったのか…

いわゆるオタサーの姫狙いの女子はこなかった。

自分より恰好のいい女子がいるのに割って入る子もいないか…

それでも宝塚の男役のような嗜好がありそうなのだが嘘でも心霊現象というのが

二の足を踏むのだろう。


結局正式会員は僕ら二人で、あとは賛助会員ということで呼び出しがあれば

即参上という公式の親衛隊という形になった。

僕たちも予備が控えているということで下手を打てないという相当なプレッシャー

をかかえてしまった。


あとから薄々分かったのだが僕が同じ寮住まいで話が早いのと僕と久保田が腐れ縁

なので僕を呼び出せば久保田もついてくるなぁという算段だった。


それなら面接などするなということなのだが

自分がどれだけ人気があるか試してみたかったということだ。


付き合ってみると外面はいいが、身内には相当厳しいことがわかってきた。


まぁ僕も久保田もだいぶMっ気があるのでまんざらでもないのだが…

部であれば大学も部室を用意してくれるのだが同好会であれば発足は自由だが

運営資金をくれるかどうかは生徒会の意向で決まる。

ようは実績を見せろということだ。

次の文化祭までに何か大きなことをしなければ予算委員会の出席さえ許して

くれないということだ。


まあそれまでは寮のミーティングルームが部室がわりになっていった。

暇な時は三人で「スカート」というドイツ発祥の三人用のカードゲームを

興じていた。

いわゆるトリックティキングというナポレオンやコントラクトブリッジのような

トランプを使ったゲームなのだが、ややこしいので説明を省く。

三人ならあと一人を加えて麻雀をしようかとなるのだが…

「衆人と同じようなことをするのは好かん」

という薫さんの意向でそれはナシになった。

これはいけないのだが賭けてやっていた。

現金のやり取りはないのだが厳密に記録をつけられるので熱が入った。

だいたい薫さんが勝っているのでそのポイントを消費して「使い走り」

をさせられた。

こうすることで僕たちも先輩風を吹かされている感覚がなくなり気持ちよく動けた。

これも薫さんの深謀遠慮なのかと深読みをしてしまう。


そうこうしていると一か月が過ぎた。


「薫ちゃん心霊探偵みたいなことしてるのよね」

一年先輩、薫さんと同輩の朱美という先輩が寮にきた。

いいとこのお嬢さんで芦屋に邸宅があるらしい。

「なにか出るの」

「離れに何かいるみたい」

「いっとくけど感じるだけで祓ったりできないんだけど」

「まあ本格的な除霊をする前のお試しってことで」

「見返りは」

「そんなぁお友達じゃない。

強いて言えば私は生徒会に相当太いパイプを持っているわ」

「コネを使わしてくれるのか」

「うまくいったら盛大に宣伝してあげる」

「天秤が釣り合ったな

よし受けよう」

「ということだ、いくぞ」

頂上で話が決まった。

是非もなし。

久保田のフィアットで朱美先輩の豪邸に行く。

六麓荘というところにそれはあった。

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