第18話 答案食い

 麻斗は補習時間中、教師の催眠術と言う名の補習授業を受けながらコクリコクリと船を漕いでいたところ、ちょいちょいと隣の友人、斎藤に肩を突かれる。


「知ってたか?再試験を満点取る方法」


 麻斗は半分寝ぼけた頭で友人の言葉を反芻する。


「再試験を…満点取る方法?」

 

 小さく呟くと、隣の友人はニヤリと笑って言葉を続けた。


「実はな、教室の七不思議の一つに、“答案を白紙でも満点にする怪異”ってのがあるらしいんだ。」

「はあ?」


 麻斗は眉をひそめるが、興味を惹かれて完全に目が覚めた。


「夜中の職員室に、その“答案喰い”ってやつが出るんだと。自分の答案用紙を供物みたいに置いて、ある言葉を唱えると、次の日には満点になって返ってくるって噂さ」

「へぇ…?」


 麻斗は呟き、少しだけワクワクしてきた表情を見せた。

 そのとき、教師の視線が鋭く飛んできて、二人は慌てて前を向く。だが、麻斗の頭の中ではすでに“その怪異、どんなヤツだ?”という思考がぐるぐると巡り始めていた。

 ――再試験を満点にする怪異、確かめてやるか。

 麻斗が小さく呟いたとき、隣の斎藤もニヤリと笑って頷いた。


「行くか……!」

「おう!」


 ふたりは机の下でそっと拳を突き合わせた。

 その直後。


「そこッ!!静かにすること!!」


 教師の怒声が飛んできて、びくっと肩をすくめる。


「……再試験、増やされるぞ?」

「……ごめんって……」


 だが、麻斗の瞳はもう輝きを取り戻していた。退屈で眠たかった補習時間は、一瞬で“怪異探索ミッション”に塗り替えられたのだ。

 ――職員室、深夜0時。

 “答案喰い”と呼ばれる怪異が現れる時間。


 ◆ ◆ ◆


 そして補習が終わり、麻斗と斎藤が並んで歩く。


「じゃ夜に待ち合わせな。…あ、お前の兄貴は口うるさいから呼ぶなよ?」


 友人が釘を差してきた。


「わーってるって」


 麻斗は肩をすくめる。


「優斗呼んだら、絶対“そんなの信じるなんて馬鹿らしい”とか言って止めにくるしな。」


斎藤はニヤリと笑う。


「だろ?お前の双子の兄貴、怖いくらい真面目だし。俺らだけで十分だって」 


 拳を軽く突き出してきた。麻斗もそれに拳をコツンと合わせる。

 放課後の校舎裏、夕焼けに染まった窓ガラスに二人の影が映る。


「んじゃ、夜十時に裏門前集合な。忍び込む準備、忘れんなよ?」


 高石が念を押すと、麻斗は親指を立てて応える。


 ◆ ◆ ◆


 そして夜。月が雲に隠れ、風のない静かな時間。 麻斗はこっそり家を抜け出すと、優斗に気づかれないように息を潜めながら裏門へと向かった。

 斎藤はすでにそこにいて、手には懐中電灯と、なぜかインスタントカメラ。


「おい、それ何だよ」


 麻斗が笑いながら問いかけると、斎藤はいたずらっぽく答えた。


「記念だよ記念。もしホントに怪異がいたら、写ってるかもしれねーだろ?」

「写っても呪われるだけな気がするけどな…」


 二人はヒソヒソと笑いながら、ゆっくりと夜の校舎へ足を踏み入れていく――。

 夜の校舎は静かだった。

 日中とはまるで違う、異質な静けさ。

 蛍光灯の明かりもなく、掲示板のプリントすら不気味に見える。


「……ほんとに“答案喰い”なんているのかな」

「知らね。でも噂では、夜中の職員室に答案を置いて、決まった言葉を唱えると――」


 斎藤がポケットから小さく折りたたまれたメモを取り出す。


「次の日、その答案が“満点”になって返ってくるらしいぜ」


 麻斗は鞄から、0点を取った自分の答案を取り出した。


「うさんくせぇな……でも、ま、面白そうだし」


 そのまま机の上に答案を置くと、斎藤がメモを見ながら、低く呟くように唱える。


「――“まがいの満点、ただ一夜。空欄を満たせし、影の名にて”」


 その瞬間、空気がひやりと冷えた。

 パチッ…と静電気のような音が耳元を掠め、

 薄暗い職員室の隅で、何かが“ぬる”と動いた気がしたその瞬間――麻斗の視界が、ぐにゃりと歪んだ。

 まるで異次元に引き込まれるように、目の前の空間がスッと消え、次の瞬間、気づけばまったく別の場所に立っていた。

 空気は重く、全身がズシリと鉛のように感じる。

 目を開けると、目の前には巨大な黒板、不気味に整列した無数の机。

 壁も天井も灰色に染まり、まるで異世界の学校に迷い込んだような空間だった。


 「……おい、斎藤……これは一体……?」


 麻斗が戸惑いながら隣を振り返ると、

 そこにはやはり“連れてこられていた”斎藤の姿があった。

 斎藤は机に正座させられ、目を見開いたまま、震える手で鉛筆を握り――すでに筆記を始めていた。


 「こ、これ……どう見てもスパルタ教育じゃねぇか……!」


 机の上の問題用紙には、「国語・数学・理科・社会」すべての問題が並んでいる。

 その時だった。

 黒板の前に、教師の影のような何かが“スッ”と現れた。

 スーツのような衣服に、人のような顔――

 しかし、その表情は凍りついたように無機質で、その手には、**異様に分厚い“教科書”**を携えていた。


「解答を開始しなさい。間違えれば、罰を与えます」


 冷ややかな声が、教室全体に響いた。


 「う、嘘だろ!?」


 麻斗は反射的に立ち上がりかけたが、

 すぐに斎藤が肩を掴んで引き戻した。


 「ダメだ、動くな……!こいつら、ただの教師じゃねぇ……っ!」


 その瞬間――

 ドンッ!!!

 化け物のような教師が、巨大な教科書を机に叩きつけた。

 響き渡る重低音。空間が震える。


 「国語・文章題。『次の文章を読み、作者の心情を記述しなさい』」


 麻斗の手が、思わずペンを握る。

 だが、出題される文章はどれも見たことのないものばかり。

(……なにこれ、読めねぇ漢字ばっかじゃねえか……!!)

「……ぐっ、くそっ……なんだよコレ……!」


 冷や汗が背中を伝う。

 間違えるたびに、背後から**ドンッ!**と教科書が振り下ろされる。


「いっっっっってえええ!!?」


 麻斗が椅子ごと前につんのめった。


「今の、絶対フルスイングだっただろ!?ていうかこれ“教科書”って重さじゃねえぞ!?」


 振り返ろうとすると、教師の影がじわりと背後に立ちふさがっていた。


「……次は社会。“縄文時代の特徴を三つ答えなさい”」

「そんなん火おこしとか土器とかなんかそういうやつだろ!?あと一個が毎回出てこねえんだよッ!!」


 ――ドンッ!!


 「ギャアアア!!もう無理ィィィ!!」


 隣では斎藤が必死に地理の白地図を埋めていたが、「山形県どこだよ!!」と叫びながら北海道のあたりに〇をつけて、即座に叩かれていた。


「いてえっ!?違った!?え、なんで!?俺、山形とかテレビで見たことねえし!!」

「せめて社会くらい勉強しとけよぉ……!」


 麻斗が机に突っ伏しながら叫ぶと、

 教師の影がぬっと顔を寄せてくる。


「態度不良、居眠り未遂、追加問題五問」

「ええええええ!?!?!」


 汗だくの麻斗は、プリントの隅にびっしり書かれた謎の問題に涙目でペンを走らせるしかなかった。


「『I am Tanaka』の意味を30字以内で答えよ」

「いやだからそれ前も言ったけど違う意味にしか見えねえんだよ!!」


 そしてまた、ドンッ!と叩かれ、また問題を解かされる。

 まるで終わらない拷問のように。

 斎藤も隣で必死に食らいついていた。

 その顔はもう、完全に焦りきっている。


 「……これ、本当に怪異の仕業か……?」


 麻斗は、歯を食いしばりながら、答えのない問題に、震える手でペンを走らせ続けた――


 ◆ ◆ ◆


「……?」


 優斗は、静かに目を開けた。

 眠っていたはずの体に、何かが走った。

 感情でも、音でも、気配でもない。

 ただ、“引っかかる”何かが、確かにあった。

 まるで、試験中に解けない問題を前にしたような焦燥感――教師にいきなり当てられたときの、あの一瞬のざわつきにも似た感覚。

 そして次の瞬間。

 ざわりと、胸の奥に波紋のような何かが広がる。優斗は無意識に体を起こし、窓の外へ目を向けた。


 「……麻斗?」


 すぐに、テレパシーを飛ばす。

 意識を、あの弟に向けて探る。


 (麻斗――どこ?何か、起きてない?)


 ……だが、返ってこない。


 (……おかしい。距離の問題じゃない……)


 普段なら、どんなに離れていても繋がるはずの思念が、今は届かない。


 「……これは……ただ事じゃない」


 優斗は立ち上がった。

 胸の中の不安が、理由もなく、強烈にせり上がってくる。


 (行かなきゃ。……今すぐに)


 迷いも準備もいらなかった。

 部屋を飛び出し、玄関を抜けて、夜の街を走る。優斗は足を速めて、人気のない夜道を走る。

 汗ばむこともなく、ただ鼓動だけが静かに早まっていった。

 麻斗の気配が、完全に感じられない。

 普段なら、怒鳴り声でも、冗談でも、くだらないことでも――何かしらテレパシーで“ノイズ”のように伝わってくるのに。

 今は、完全な沈黙。


(……あいつが完全に沈黙してるなんて、逆に怖い)


 学校に辿り着いた優斗は、鍵のかかった正門を迷わず飛び越えると、真っ暗な校舎の中をまっすぐ職員室へと向かった――そして、職員室前。

 近づいた瞬間、空気が変わった。

 重く、ねっとりとした霊気が足元から絡みつくように滲み出ている。

 時間の流れが遅くなったような、空間が歪んだような感覚。


 「……ここだな」


 優斗は小さく呟くと、扉に手をかける。

 ギィ……

 音を立てて開かれた職員室の中は、

 照明も何もついていないのに、なぜか“妙に見通しがいい”。

 机と椅子がずらりと並び、答案用紙の束がどこかに積まれていた跡。

 異様なまでに整った室内の奥に――

 “空間の裂け目”のような違和感があった。


 「……麻斗?」


 優斗は静かに名前を呼びながら、一歩足を踏み入れる。

 だが、返事はない。

 そして、彼の足元に――ヒュゥ……と、何か紙のようなものが舞い落ちてくる。

 拾い上げて見ると、それは**“0点”と記された答案用紙**。

 けれど、紙には見覚えのない術式の断片が滲んでいた。


「これは……異界転送……?」


 優斗の眉がわずかに動いた。

 ――弟は、今、“中にいる”。


「……連れてこられた、か」


 すぐに術式を展開しようと、指先に霊気を集めながら、優斗は職員室の空気を読み取り始めた。


「特殊な結界だな……でも――」


 優斗は空間を読み取り、結界の“ほころび”を瞬時に見抜く。

 その一箇所に指先を添えると、まるで水に溶け込むように、するりと空間へ入り込んだ。

 次の瞬間、彼の目の前に広がったのは――

 無数の机、巨大な黒板、そして異様なほど整然とした教室。

 だが、それはどこか歪んでいた。

 空気は重く、時間の感覚すら狂いそうな空間。その中心で、麻斗と斎藤が必死に試験問題と格闘している。

 異界の教師――“それ”は、氷のような目で二人を見下ろしていた。


「……条件付き結界か。テストを解く、というルールで、麻斗すら閉じ込められるような強力な構造を組んでる」


 優斗は瞬時に理解する。


(退魔の波長を潰すには、“霊気を出せない状況”を作るのが一番……)

「優斗!? マジ、これやっばいから!!」

「日吉兄……ッ!なんでここに……!」


 麻斗と斎藤が青ざめた顔でこちらに気づいた。だがその直後、異界の教師たちが一斉にピクリと動く。

 その冷徹な視線が、優斗を捉えた。


 「……お前も、試験を受けるのか?」


 低く、無機質な声。

 空間が張り詰める。

 優斗は一歩前へ出ると、静かに眼鏡を押し上げて答えた。


 「――答えさせてもらう」


 その瞬間、黒板がギギギ……と不気味な音を立てて動き出し、次々と問題が書き出されていく。


「国語、文章題。“著者の意図を答えなさい”」


 優斗は文章に一瞥をくれると、すぐに口を開いた。


「著者は、人生の一瞬一瞬をどう捉えるかを問い、読者に自らの価値観を見直させようとしている」

「数学、積分問題」

「境界値はaからb。導関数を使えば、この式はこうなる。答えはこれだ」

「理科、化学反応式」

「これは酸化還元反応。生成物はこう、反応式は……こう」

「社会、歴史問題」

「この改革によって階級制度は崩れ、人々の価値観が――」


 正確無比な論理と記憶。

 静かに、淡々と、だが確実に“答え”を重ねていく。

 異界の教師たちは次第に沈黙し、

 黒板の動きも、やがて止まった。

 ――その瞬間。

 ギィ……と空間が軋む音がした。

 教室全体がわずかに揺らぎ、天井にひびが入る。


 「……なぜ……」


 どこか苦しげに、異界の教師が呟く。

 優斗は軽くため息をつきながら、肩越しに麻斗たちへ振り返った。


「……で、なんで君たち、こんなもんに巻き込まれてんの」


 麻斗がうわずった声で答える。


「いや、あの、再試験を白紙でも満点にする怪異がいるって言われて……」

「で、来たらこのザマってわけか」

「まじで地獄だったからな!?殴られるし問1からわかんねーし!てか、俺“山形県どこ?”って答えただけで教科書フルスイングだぞ!?」


 斎藤も泣きそうな顔で言った。


「オレなんて、“日本の首都”で“カリフォルニア”って書いただけで追加問題五問……」

「……救いがないな…」


 呆れたように優斗がぼやくと同時に、

 パキィン、と結界の一部が音を立てて崩れた。


「……正解を重ねるごとに、この空間はほころんでいく。“ルールに従って解く”って縛りが、この世界の支柱だったってわけ」


 彼の目が、まっすぐ麻斗へ向く。


「麻斗。結界、もう効かない。やるよ」


 その言葉を聞いた瞬間――

 麻斗の全身に、ふわりと霊気が立ち上がった。抑え込まれていた退魔の波長が、一気に解放されていく。


 「おっけぇ……っしゃああああ!!」


 麻斗の周囲に、荒々しい霊気――退魔の波長が一気に立ち上がる。

 空間が震え、机がガタガタと軋んだ。


「おい教師どもォ!!俺に“社会の変化”だの“反応式”だの解かせやがってよォ!!!」


 教室の前に立つ異界の教師たちが、巨大な教科書を構え、無言で迎え撃つ構えを見せる。


 「お前らの“教育”なあ……全ッ然ありがたくねぇからな!!」


 麻斗の拳が唸りを上げて放たれる。


 「くらえッッ!!」


 ドガァッ!!!

 一撃で机三つを吹き飛ばし、異界教師の一体を教卓ごと壁にめり込ませる。


「うおおおお!机ごと消し飛ばすんじゃねーよ!」

「麻斗、暴れすぎ。後で現実に戻った時、請求書が届く可能性あるぞ」


 優斗が冷静に術式を貼りながら、的確に突っ込む。斎藤は完全に固まっていた。


「えっ、お前ってそんな……いや運動はできたけど!でも勉強のストレスで爆発するタイプじゃなかったよな!?」

「実技は得意なんだよ!!」


 異界教師たちが反撃に出る。


「数学、再試験……受けなおしなさい」

「理科……誤答、減点。十倍」

「社会……追加レポート、A4で十枚」

「ぜってぇやだ!!そんなの出されたら俺の夏終わるッ!!」


 麻斗の波長が、襲い来るプリントやペン、追加課題の霊気を片っ端から打ち砕いていく。


「貝塚、土器、えーっと、狩猟採集!!ほら!三つ言えたぞコノヤロー!!」


 黒板がヒビを刻み、空間がぐらりと歪む。


 「結界、崩壊寸前」


 優斗が静かに告げると、麻斗が拳を掲げて叫ぶ。


「答案喰いってんならなァ――俺の0点答案、体で受け止めてみろやぁああああああ!!!」


 ズガァアアアアアアッ!!!

 退魔の波長が炸裂し、異界が白く弾けた。

 黒板は崩れ、教室も机も、すべてが光に飲まれていく――教室のような異界の空間は、徐々に色を失い始めていた。

 机も、黒板も、床も――まるで砂のように崩れ落ち、音もなく消えていく。

 空間の崩壊が始まっていた。


「っしゃあ!!勝ったぁああ!!補習ぶっ壊し大成功~~!!」


 麻斗がガッツポーズを決め、隣の斎藤の肩をバンバン叩く。


 「マジで……生きてる?オレ、これ夢だと思ってた……」


 斎藤はぐったりしたまま、天井――いや、消えていく“天井だったもの”を見上げていた。

 そのとき、二人の前に静かに歩み寄る優斗の姿があった。


 「……で?」

 

 たった一言。

 冷静すぎるその声に、麻斗と斎藤がピタッと動きを止める。


 「……え?なにが?」

 

 麻斗が笑顔を引きつらせながらとぼけた。

 優斗は眼鏡をクイッと押し上げ、淡々と告げる。


「職員室に忍び込んで、異界に取り込まれる。

どうせ……“満点の答案くれる怪異がいる”とか、そんな馬鹿な話を信じたんでしょ?」

「ぎくっ」


 麻斗と斎藤が同時に目をそらす。


「でもさー、結果的に異界の教師ぶっ倒したし?俺ら、すげー頑張ったじゃん?」


 ちょっとだけ開き直る麻斗。

 優斗は深くため息をつきながら、二人に一歩近づく。


「“結果オーライ”は反省じゃない。次やったら、オレが本気で説教する。……異界より怖いと思え」


 その言葉に、二人の背筋がピシィィと伸びた。


「うぃっす……」

「すみませんでした……」


 そして、優斗は何気ない顔で、そっと麻斗にだけテレパシーを送る。


(しかも普通の人間を巻き込んだ挙句、一緒になって囚われてるなんて……陰陽師失格だ)

(すみません……)


 その後、空間が完全に崩れ落ち、気づけば三人はいつもの職員室に立っていた。

 帰り道。

 斎藤が途中で手を振って別れたあと、

 麻斗は何事もなかったような顔で優斗に聞いてきた。


「なあ優斗。……あれってさ、結局テスト扱いになるの?」


 優斗は一拍、黙ってから静かに答えた。


「ならないよ。教師が人外だったから。試験の正当性が担保されてない」

「マジか!?」


 麻斗は喜びのあまり、跳ねるように歩き出す。


「……ってことは、これ、補習も再試もなかったってことで――」

「明日、普通に再試あるよ」

「え、なんで!?!?」

「だってお前、もともと0点だったから」

「そこからかよおおおおおお!!!」


――真夜中の大騒動のあとも、補習はしっかり待っていた。

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