第3話『はじまりの鐘』



ふわり――。


冷たい風が、また菜月たちの頬をなでた。


プリルは、きゅっと耳をたたみ、真剣な顔になる。

いちごとマカも、菜月の手をそっと握った。


「なつきちゃん、びっくりしないで聞いてね。」


「う、うん……。」


菜月は、ごくりと唾をのんだ。

スイーツ村には、楽しいことだけじゃない――秘密がある。

その言葉が、胸の中で小さく響いている。


「スイーツ村にはね、『はじまりの鐘』っていう、大事な鐘があるの。」


いちごが、ふわふわの耳をぴくりと動かしながら話し始めた。


「その鐘が鳴ると、村にあるスイーツたちが、もっと元気になるんだよっ。」


「お花も果物も、魔法の力でいーっぱい元気になるの~!」


マカが、両手を大きく広げて説明してくれる。

その姿は、まるでスイーツ村の楽しさをそのまま表しているようだった。


「でもね……」


プリルが小さく声を落とした。


「最近、その鐘が鳴らなくなっちゃったんだ。」


「えっ?」


菜月は、思わず声を上げた。


「鐘が鳴らないとね、村のスイーツたちが、だんだん元気がなくなっちゃうの……。」


いちごの丸い目が、少しうるんでいる。

マカも、しょんぼりとしっぽを下げた。


「だからね、ボクたち、ずっと困ってたんだ。

でも、なつきちゃんが来てくれたから……きっと、なにかが変わるって、思ったんだ!」


プリルが、まっすぐな目で菜月を見た。


「わたし……?」


菜月は、自分の胸に手を当てた。


ふわふわの森。甘い空気。あったかいみんな。

さっきまで、ただ楽しいだけだった世界に、急に大きな役目が現れたみたいだった。


「うんっ! なつきちゃんは、きっとこの村の『光』なんだよ!」


いちごが、ぱあっと笑顔を咲かせた。


「ぼくたち、なつきちゃんと一緒に、はじまりの鐘を取り戻しにいきたいの~!」


マカも、ふんすっと鼻を鳴らした。


菜月は、みんなの顔を見渡した。

不安で、ドキドキして、でも――


「……うん。わたし、やってみる!」


ぎゅっと両手を握りしめ、菜月はにっこり笑った。


***


「じゃあ、さっそく『はじまりの塔』に行こうっ!」


「塔……?」


「うん、スイーツ村の真ん中にあるんだよ~!」


いちごが元気よく駆け出す。

マカもプリルも続き、菜月もあとを追った。


森を抜けると、目の前に広がったのは、きらきら光るお菓子の道。

道の両脇には、キャンディの木やチョコレートの岩が並んでいて、

その奥――空にむかって、すらりとそびえる白い塔が見えた。


「わあ……!」


菜月は、思わず立ち止まった。


塔は、真っ白なホイップクリームのような壁に、ところどころカラフルな飴細工がはめこまれている。

てっぺんには、金色に輝く鐘が……けれど、動かないまま、静かに沈んでいた。


「ここが、はじまりの塔……。」


プリルが、ぴょんっと跳び上がって説明する。


「でも、塔に入るには、試練があるんだよっ!」


「試練……?」


菜月は、ごくりとつばを飲んだ。


「うんっ。甘いだけじゃ、たどりつけないの!」


いちごが、ぴしっと指を立てた。


「ちょっと怖いこともあるかもしれないけど……ぼくたち、絶対に守るから!」


マカが、きゅっと菜月の手を握りしめる。


そのぬくもりに、菜月はふっと力がわいた。


「よし、行こう!」


胸を張って、塔の前に立つ。

甘くて、ふわふわで、でも――

今はちょっとだけ、ピリッと引きしまった空気。


スイーツ村の、ほんとうの冒険が、いま始まる!

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