第2話『ふしぎないちご畑とプリンのもり』
菜月は、いちごとマカに手を引かれながら、村のなかを歩いていた。
「こっちこっち~! まずは、いちご畑を見せてあげるっ!」
「いちご畑……?」
いちごがぴょんっと飛びはね、マカがころころ転がるようにして先を行く。
菜月は、ふわふわの空気に包まれながら、ドキドキしながらついていった。
***
少し歩くと、あたり一面に広がる赤い絨毯みたいな場所にたどり着いた。
そこには、信じられないくらい大きな――それこそ、菜月の頭よりも大きい――真っ赤なイチゴが、たわわに実っていた!
「わあ……!!」
菜月は思わず声をあげた。
イチゴたちは、太陽みたいにきらきらしていて、甘い香りが辺りに広がっている。
「ここはね、スイーツ村のいちご畑! 特別な魔法がかかってるんだよ~!」
マカが、ちょこんと菜月の肩に手を乗せて教えてくれる。
「魔法?」
「うんっ。ここで育ったイチゴは、食べると心がぽかぽかになるんだよっ!」
いちごがぴょんっと跳ねて、葉っぱの間から一粒のイチゴを摘み取った。
それを菜月に、そっと差し出す。
「なつきちゃんも、どうぞ!」
「え、いいの?」
「もちろん~!」
菜月は、そっとイチゴを受け取った。
指先に伝わる、ほわっとした温かさ。
甘い香りに誘われて、一口かじると――
「……あまいっ!」
目を輝かせた。
普通のイチゴよりずっとジューシーで、やさしい甘さが口いっぱいに広がった。
「おいしい……!」
にこにこと笑ういちごとマカ。
菜月も、自然とにっこり笑っていた。
***
「次はね、プリンの森に行こうよっ!」
「ぷ、プリンの森!?」
いちごが得意げに胸を張る。
「うんっ! ここからちょっと歩いたところにあるんだよ~。木が、ぜんぶプリンなの!」
「プリンの……木?」
菜月はきょとんとしたけど、二人に手を引かれるまま、また歩きはじめた。
しばらく歩くと、目の前に、ふわふわと揺れる森が広がった。
木の幹はキャラメル色。
枝には、ぷるんぷるんと揺れる、黄色いプリンのかたまりがなっている。
そして、頭上には、カラメルソースがとろ~りとした雲が浮かんでいた。
「すごい……!」
菜月は目をまんまるにした。
そのとき、ぷるんと揺れるプリンの木の上から、ぴょんっと小さな動物が降りてきた。
「やっほ~! ようこそ、プリンの森へ~!」
にっこり笑ったのは、プリンの体を持った小さな犬だった。
その背中には、カラメルのリボンがちょこんと結ばれている。
「ボク、プリン犬のプリル! 君、見ない顔だね?」
「えっと……菜月です。はじめまして!」
菜月がぺこりと頭を下げると、プリルはしっぽをぷるぷる揺らした。
「はじめまして、なつきちゃん! ボクのプリン、食べる?」
「ええっ!? いいの?」
「もちろんさ~! スイーツ村では、みんなで甘いものを分けあうんだよ!」
にこにこ笑うプリルに、菜月はまたまたびっくりしながらも、小さなプリンを一口。
「……とろとろで、あま~~い!」
思わずうっとりした声が出た。
周りでは、いちごとマカが、くすくす笑いながら見守っている。
「ねーねー! 菜月、もっとたべよーよ!」
「プリルのプリン、世界いちなんだよ~!」
三人に囲まれながら、菜月はまた笑った。
知らない場所なのに、こんなにあったかい気持ちになるなんて、思ってもみなかった。
***
そのとき。
森の奥から、ふわあっと冷たい風が吹いてきた。
甘い空気とは違う、少しぴりっとした、ひんやりした風。
「……あれ?」
菜月が立ち止まると、プリルもぴたっと動きを止めた。
「この風……もしかして――」
いちごとマカが顔を見合わせ、ちょっとだけ不安そうな表情を浮かべた。
「なつきちゃん……スイーツ村には、楽しいことだけじゃなくて、ちょっとだけ秘密があるんだ。」
「……秘密?」
菜月は、ぎゅっと胸が高鳴るのを感じた。
甘い冒険の、その先にあるものは――
まだ、誰も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます