ミックス犬MINT

@JournaRhythm

プロローグ:突然やってきたミント

朝のチャイムが鳴ったのは、まだ寝ぐせも直していない時間だった。


「宅配?こんな時間に?」とぶつくさ言いながらドアを開けたおっさんが見たのは、段ボールひとつ。誰もいない。玄関先にポツンと置かれていた。


「ん?なんやこれ……」


段ボールにはマジックで大きく「Mint」と書かれている。ミント味の何かか?いや、軽すぎる。おっさんが恐る恐るフタを開けると——


「…………ん?」



中には、小さな犬。グリーンとホワイトのどう見てもペンキぶっかけられたような毛色のぶち犬。しかも、垂れ耳に銀のピアスが。前足にはゴツいバングル。まるでどこかのヒップホップライブ帰りみたいな出で立ちだった。


「お、おぉ……個性、強めやな……」


犬は見上げていた。完全に見下すような目線で。


『で、おっさんが……“飼い主”?』



言葉こそ発さないが、その顔にすべてが書いてある。おっさんは後ずさるように立ち上がった。


「えーっと……ちょっと待てや。俺、犬飼うとか聞いてへんで?」


段ボールの隅にはメモが一枚。


「この子をよろしくお願いします。名前はMintです。」



「おぉいぃ……無責任にもほどがあるわ……」


犬は段ボールからひょいと飛び出し、玄関マットの上で大きく伸びをした。そのまま家の中へとズカズカと入り込む。


「ちょ、おいおい!勝手に入るな!」


ミントと名乗るその犬は、リビングのソファに飛び乗ると、まるで自分の家かのように前足を組み、ため息ひとつ。



『ふぅ……最悪の家引き当てたわ』


おっさんは呆然としたまま、しばらく立ち尽くしていた。


こうして、見知らぬ段ボールからやってきた毒舌ミックス犬Mintと、ポンコツなおっさんの共同生活が始まった。


お互いに一言も話していないのに、なんだかもう、すでに疲れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る