第2話 「麻の葉文様 🍃 春を編む手」
「麻の葉の文様に込めたのは、まっすぐに伸びゆく願い。」 🍃
春、山里の小さな村。
川沿いの畑では、まだ柔らかな若草が芽吹きはじめたところだった。🌱
その畑の隅で、一人の老女が静かに糸を撚っていた。
手のひらに乗せた細い麻糸を、指先で丁寧に、そっと編んでいく。
くるくる、くるくる。
編み上がる布地には、六角形の幾何学模様――麻の葉文様が浮かび上がっていった。
「おばあちゃん、なにしてるの?」
小さな声がして、振り向くと、孫のハルが立っていた。
まだ七つになったばかりの細い身体。
けれど、その目は春の空のように、澄んで、力強い。
「これはね、ハルのための産衣(うぶぎ)だよ。」
老女は微笑みながら、糸を撫でた。
「麻の葉はね、すくすく、まっすぐに育つの。だから、昔から赤ちゃんの産着にこの模様を縫ったんだよ。」
「ぼく、もう赤ちゃんじゃないよ!」
ハルはむっと頬を膨らませた。
老女は笑いながら、その小さな頭をそっと撫でた。
「そうだね。だけど、人はいつだって育ち続けるものさ。
強く、しなやかに、風にも負けず――麻のようにね。」
春の風が、ふわりと吹き抜ける。
編みかけの布地が、そよそよと踊った。🍃
ハルはしばらく黙って、老女の手元を見つめていた。
細くしわだらけの指が、途切れることなく糸を編んでいく。
その指が伝えてくるもの――
それは、言葉よりも確かで、あたたかなものだった。
「おばあちゃん、ぼくもやってみたい!」
ハルが目を輝かせた。
老女は笑って、余った麻糸をハルの手に渡した。
「ほら、まずは、くるくる、ね。」
小さな手と、大きな手。
二つの手が並んで、春の畑の中でせっせと動く。
くるくる、くるくる。
どこまでも真っ直ぐに、空に向かって。
新しい季節の光の中、
小さな成長が、そっと芽を出した。
📖【この話に登場した文様】
■ 麻の葉文様(あさのはもんよう)
由来:麻の葉の形を図案化したもの
意味:麻がまっすぐ早く育つことから、子どもの健やかな成長を願う文様
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