文様綺譚 二十四景(もんようきたん にじゅうよんけい)
Algo Lighter アルゴライター
🌸【春の章】
第1話 「桜文様 🌸 桜ひらり、君へ」
「桜の文様に込めたのは、別れではなく、始まり。」 🌸
春。
町の外れにある、小さな神社の境内。
石畳の道に、桜の花びらがひらひらと舞っていた。🌸
木々の間からこぼれる陽射しが、淡い光の粒になって揺れている。
その中を、一人の少女が歩いていた。
白地に薄紅色の桜文様が散らされた着物。
柔らかな布地が、春の風にふわりと膨らんだ。
「――待ってたよ。」
神社の鳥居の下、少年が立っていた。
彼は少し照れたように笑い、手に小さな包みを持っていた。
「これ、君に。」
少女は、そっとその手を受け取る。
包みを開くと、そこには、桜の花びらを模した小さな守り袋が入っていた。
白地に紅の糸で、一つ一つ丁寧に刺繍された桜。
そして袋の口には、金糸で一言だけ――
「咲」という文字が、細やかに縫い取られていた。
「…ありがとう。」
声が震えそうになるのを、少女は必死にこらえた。
この春、彼女は町を離れ、遠くの学校へ進むことが決まっていた。
別れが近づくたび、何度も言葉を探した。
けれど、うまく伝えられる自信がなかった。
「春になったら、またここで会おうよ。」
少年が、少しだけ強く言った。
「桜、また一緒に見よう。約束だ。」
少女は、ふわりと笑った。
心の奥が、ぽっと暖かくなる。
「うん、絶対に。」
その瞬間、強い風が境内を吹き抜けた。
舞い上がる桜吹雪。
世界が一面、白と薄紅に染まる。
その中で、二人はそっと手を伸ばし、指先だけを重ねた。
別れは、終わりじゃない。
桜がまた咲く頃、ここで。
きっと、また――
春の光に溶けるように、二人の笑顔が輝いていた。🌸
📖【この話に登場した文様】
■ 桜文様(さくらもんよう)
由来:春の象徴であり、日本人に古くから愛されてきた花
意味:出会いと別れ、人生の移ろい、美しき瞬間
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