歌を笑われた少年、神唄で覚醒〜追放精霊師、南の島で世界を塗り替える〜
☆ほしい
第1話
潮の香りが鼻をくすぐった。
目を開けた俺の視界には、どこまでも広がる青。空も、海も、青一色。けれど、その境界線にぽつんと浮かぶ、小さな島があった。
島に近づくほど、風が変わった。熱を帯びた潮風に混ざって、微かに草木の匂い、焚き火の煙のような、懐かしい匂いが鼻をかすめた。
「……ここが、終わりってことか」
俺──ナギは、王都から追われるようにして、小舟一つでこの島に流れ着いた。いや、正確には「捨てられた」って言ったほうがいい。
ギルドの連中は言った。
『お前の力など、祈りに頼った昔のものだ。今の時代には通用しない』
それでも、俺には見えていた。感じていた。風の声、海の囁き、石の記憶。誰も気づかなかったそれを、俺は確かに感じ取っていた。
だけど──それは“見えないもの”を信じないこの国では、笑いものだった。
だから俺は、この島に賭けた。地図にも詳しく載っていない辺境の島、《フユノ》──それが、潮風に乗って聞こえた名前だった。
「にーに、だいじょうぶね?」
柔らかい声に振り返ると、濡れた足音を立てながら、一人の少女が近づいてくる。真っ黒な髪を三つ編みにまとめ、額には赤い布。肌は陽に焼け、瞳は琥珀色に光っていた。
「……誰?」
「わたし、フウナ。この島の、うたしゃーさ。にーに、空から来た人?」
「……うたしゃー?」
聞き慣れない言葉だった。フウナはくすりと笑って、肩をすくめる。
「“神の唄を継ぐ者”って意味よ。この島じゃ、むかしから“風”とか“火”とか、“目には見えないもの”を感じて唄うの。そしたら、神が応えてくれるの」
神が、応える? そんなこと、信じていいのか。
──いや、でも。
ギルドでは笑われた俺の力は、たしかに風を呼んだ。草を揺らした。海を鎮めた。
フウナは、まるでそれを知っていたように、俺の手を取った。
「にーに、きっと“選ばれた人”ね。だから、この島が呼んだのよ。あが(あなた)を」
──このときだった。
海がざわりと揺れた。風が、ひゅるりと旋回した。
──まるで、「歓迎」されているみたいに。
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