第5話 「馬車の事故と、未来のタネ」

村が火事から立ち直りはじめたころ、ケイはまた予知夢を見た。


──道を走る豪華な馬車。

──小さな橋の前で、車輪が外れ、横転。

──逃げ出す馬たち。

──巻き込まれた人々の混乱と悲鳴。


目覚めたケイは、静かに息をつく。


(事故そのものは、きっと防げない。でも……起きた後なら、できることはある。)


数日後、ケイはサクを呼び止めた。


「なあサク。ニンジン、好きか?」 「えっ、オレ? まあ、食えるけど……」 「いや、人間じゃなくて、馬の話な。」


わけが分からない顔をするサクに、ケイはニヤリと笑うと、畑から大きなニンジンを何本か抜いて渡した。


「ポケットに入れとけ。すぐに使う時が来る。」


サクはきょとんとしながらも、素直にニンジンを抱えた。


* * *


そして、その日。


村外れの街道に、人だかりができた。


「すげえ馬車だ……!」「きらきらしてる!」


ケイが見たとおり、貴族らしい華美な馬車が、村へ向かって進んでくる。


そのとき。


「──あっ!!」


誰かが叫んだ。


馬車が、橋の手前でぐらりと傾き、ガタガタと激しい音を立て、横転した。

続けて、馬たちが驚き、暴れながら逃げ出した。


「うわああ!」「危ない、逃げろ!」


村人たちが叫び、散り散りに走る。

馬は大きく、力も強い。踏まれれば、ひとたまりもない。


ケイは迷わず、サクを振り返った。


「いけ、サク!」


サクはニンジンをぎゅっと握りしめ、全力で走り出した。


「ほら、こっちだぞー!!」


ニンジンを高く掲げて、逃げる馬たちの前に立つ。

馬たちはピタリと動きを止めた。

甘い匂いに誘われるように、サクの方へ集まってくる。


「よーし、いい子だ、いい子だ……!」


サクはニンジンを馬たちに差し出しながら、少しずつ安全な場所へ誘導した。


ケイもすかさず駆け寄り、手綱を確保する。


その素早さに、周囲の騎士たちや従者たちが目を丸くした。


「助かった!君たち、何者だ!?」 「ただの村人です!」


サクが胸を張って答え、ケイは苦笑いした。


事故で馬車は壊れてしまったが、けが人は出ず、馬も無事に捕まえることができた。


ホッとした空気が、村に広がる。


(これで、未来は少しだけマシになった。)


ケイは空を仰いだ。


そして、この出会いが──

後に、ケイたちの運命を大きく動かすことになる。



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