第9話Side感情優花①

 ブブッと携帯が震えて届いたのは先日受けたオーディションの結果のメールだった。今度こそと思いメールを開くと…


「…また…落ちちゃったかぁ…」


 これで何度目だろうか…。歌のオーディションが開催される度にそれに応募しては落ち、応募しては落ち…。


「私の歌声じゃ…駄目なのかな…」



 ま、まだ…私十五だし、今年十六になるけど、またまだだよね!?まだ頑張れる!




「気持ちが落ち込んじゃった時はあそこで…」




 私はいつもの河川敷にある高架下へ。あそこなら電車が通る時に合わせて大声で歌っても電車の音で搔き消えるし、電車が通ってなくても人気がないからいいよねという私が落ち込んだ時に歌う定番の場所。



 そんな定番の場所で私の運命が変わるなんてこの時は全く思ってもみなかったよ…。





♢♢♢



『──探してぇぇぇぇ♪ るぅぅぅぅぅ♪ ♪ 』


 高架下で目を瞑り…集中していつものように歌っている時の事。ふと目を開けるとカッコいい男性が佇んでいたの。最初は夢かと思っちゃったよ…。男性がこんなところにいるわけなんてないって…だから…「…ぁっ…!?」って変な声が出ちゃって…


 そしたら次の瞬間…


「あ、あの、違うからね?俺は怪しいものじゃなくて…君の歌声に惹かれて…」



 男性が喋りかけてきたの…私に。そりゃあ驚くよね!?男性に話し掛けられるなんて生まれてこの方経験した事ないんだよ!?ビックリしてちょっとだけちびってしまっていてもなんら不思議な事じゃないんだよ!


 とにかく男性に不甲斐ない歌声を聞かせてしまったと思った私は慌てて彼の元へ駆け出しジャンプ!そして滑空からの土下座をかましたの。地面が痛かったけど気合で乗り越えたわ!


「あ、あの…と、とりあえず…立ち上がって謝られた訳を聞いてもいいかな?」


 そしたら男性はそんな風に言ったんだよ?信じられなくてまずは許してくれるのか聞いて見る事にしたの。


「ゆ、許してくれりゅの?」


「許すも何も…そもそもの話、俺は君に謝られてる理由が分からないんだけど…?」


「それは男性に…あなたに私の下手くそな歌を聞かせてしまったから…」


 そう言った私に対して男性はなんて言ったと思う…?正直何を言われたのか飲み込めなかったよ…。


「いやいや…何言ってるの?」


「…へぇっ?」


「耳障りどころか綺麗な歌声だと俺は思ったんだけど」


「──ふぇっ? あっ…いや…でも…私は…私の歌声は…」


 綺麗な歌声って初めて言われた…。でも私はオーディションに何度も落ちていて、酷い事もたくさん…


「もしかして…誰かに何か言われたりとかしたの?」


「っ!?」


 何で分かったのっ!?って私は思った。男性に私の気持ちを分かってもらえる日がくるとは思っていなかった…。


「良かったら…何があったのか話してみない?」


 尚も男性は私に優しく問いかけてくれた…。だから私は…



「…さっき…通知が来ていたんです…歌の…オーディションの通知です…」


 そこからは止まらなかった…。


「…初めて落ちたんじゃないんですっ!落ちたんです!!もう…何度も何度も何度も…受けるオーディション全て落ちてるんですっ!先日のオーディションでは…『また受けたの?』とか言われるし、その前なんてっ『才能ない』とか『君にこの歌はレベルが高すぎる』とか『耳障りだ!』とまで言われてっ!!」



 私は思いの丈を全部全部吐き出した。男性は黙って話を聴いてくれて…




 私が落ち着いたタイミングでこう言ってきたの…。



「俺は…君が欲しい」



「………ふぁっ!?」



 嘘でしょっ!?私が欲しい!?そそそそそ、それってそういう事だよね!?私としたいと言ってるんだよね!?これが間違いなら私死ねるよ!?


「俺の家に来て!」


 ふぁーーーーっ!?来た!来たよ!これ!間違いないよ!?下の毛は剃ってたっけっ…?あっ、私は生えてなかったわ!こんな時無毛で良かったと心から思えたわ!パイパンの神様ありがとうございます!私は今日パイパンをこの男性に見せて処女を卒業します!


 あっ、待って!?今日身につけている下着は可愛かったっけっ?普通のたったよね!?くっ…こうなるなら勝負下着を常日頃身につけていれば…仕方ない…。彼の家についたらシャワーを借りて…バスタオルで攻めるのみね…。



 まさかオーディションに落ちてから大逆転サヨナラホームランが起こるとは人生捨てたもんじゃないよね!


 優花!大人の階段を今登りま~~~す♡

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