第13話「幼き軍師の名声」
クラウン王国・議会庁舎 大講堂。
千名を超える議員と貴族たちが集い、重厚な木の香りと魔導灯の光が入り混じるこの場所で、
今、一人の“幼き少女”の名前が議事録に刻まれようとしていた。
「――では、次の提案者。アストレア家代表、シオン嬢の入室を許可する」
ざわつく声が広がる。
「子供が提案者だと?」「形だけの登壇では?」
そんな疑念が飛び交う中、重々しい扉が静かに開かれた。
高い天井から差す光に照らされ、
赤と銀の正装をまとったシオンが、堂々と歩を進めた。
彼女の背は低い。
しかし、その一歩一歩が、空気を変えていく。
(これが、“舞台”か。なら――私はこの場で、“役”を演じきる)
***
提案の主旨は、「辺境同盟による新式輸送網の構築」。
それは王国の軍事的、経済的利益と、“辺境の民の独立性”を両立させるものだった。
「……現在、王都と東方との輸送は騎馬が主流ですが、クヴァル部族の“風走獣(フェンナ)”を利用すれば、移動時間を半減できます」
シオンは、魔導演算板に空中地図を投影し、各輸送拠点と日数を明示した。
「さらに、王都で飽和している人員配備を、辺境から補填可能です。
ですが、それには一つ条件があります――“王都の補給権を、一部、地方に委譲すること”」
会場がざわついた。
「補給権の委譲だと……!?」「それは王権の縮小を意味するぞ!」
だが、シオンは一歩も引かない。
「いいえ。これは“分割”ではなく、“分担”です。中央がすべてを抱える時代は、もはや終わりました。
民と地方を“活かす”ために、“信”と“利益”を共有する新体制を提案するのです」
言葉に力が宿っていた。
そこにあるのは理想ではない。
過去の交渉と成果、民意データ、情報網の“戦果”に基づく、現実的な勝算だった。
***
会議終了後。
王宮の塔にて、王と宰相オルトリウスが会話していた。
「……子供とは思えぬ、演説でしたな」
「むしろ、子供であるからこそ“余計なもの”に縛られない。……だが、警戒も必要だ」
「ええ。あの少女は、王国を変えるか、あるいは壊すか、どちらかです」
***
同じ夜、王都の路地。
情報屋の少年たちが口々に話していた。
「銀の軍師、かっけえな!」
「王様みたいだった!」
「でも、泣いたり怒ったりもしないのかな……なんか、ちょっと、こわい……」
民の間にも広がる“名声”。
それは希望であり、畏れでもあった。
***
屋敷の作戦室。
仲間たちが静かに拍手を送る中、シオンは魔導板を閉じ、短くつぶやいた。
「名声とは“刃”です。抜けば敵も味方も斬れる」
「……でも、それを振るうのが“お前”なら、オレは背中預けるぜ」
カイルの声に、ザックもうなずいた。
「数字で世界を動かして、感情で信頼を得る。……それが“軍師”ってやつですよね」
シオンは静かに微笑んだ。
(この刃で、まだ守れていないものがある。だから私は、まだ止まれない)
次なる戦場は、さらに大きな“舞台”。
その入り口に立つ少女の姿は、もう誰の目にも、ただの“子供”には映らなくなっていた。
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