Stand Up!

シンカー・ワン

勇気のメロディ

 何かに挑もうとするとき、苦境から抜け出そうとするとき、そんなとき思い起こされるメロディ。

 心に勇気を与え、背中にひと押しくれる、そんな楽曲をあなたはお持ちだろうか?


 わたし中禅寺晃ちゅうぜんじあきらにはある。

 未知へと向かう好奇心を高め、どんな苦難からも立ち上がる力をくれる曲が。


 それは夕焼けが良く似合う、土埃にまみれ鈍い銀色をした巨人が劣勢を覆したとき、彼の勝利を約束する曲。

 組んだ十字が、左手の腕輪ブレスレットが、敵にとどめの一撃を決めるまでの曲。


 ミュージックナンバー、十二と十三。

 それが私のお気に入りの曲マイ・フェイバリット・ミュージック



 出会いは私がまだ幼かったころ。

 筋金入りの特撮物ファンである父に付き合うようにして見ていた作品たちのひとつに、二代目の銀色の巨人が活躍するものがあった。

 スマートで洗練されていた先代と違い、二代目は何か泥臭く。

 その特徴的な体色の銀も、いつもくすんだような感じで、格好良いとは思えなかった。

 でも、見続けていくうちに、私はこの鈍い銀色をした巨人から目が放せなくなっていた。

 けしてスマートじゃない、格好良くなくていつも苦戦しているような、この巨人の虜になっていた。


 間違いなく、あれが私の初恋。


 敵に打たれ倒され土埃まみれになって苦戦する、そんな彼が形勢逆転する際、必ずと言ってよいほどかかる音楽があった。

 軽快で、けれど勇壮なその曲は彼の活躍とともに私の中に沁み込み、いつしか、知らず知らずのうちに口ずさんでしまうくらいに。

 ある年の誕生日、父からの贈り物は一枚のCD。ジャケットにはあの銀色の巨人。

「これからいつでもあの曲が聴けるぞ」

 父のその言葉に、私がどれほど喜んだのかは、言うまでもないだろう。


 以来、私の心にはいつもこの曲があった。

 特に挫けてしまいそうになったときや、一歩を踏み出そうとしたときはいつもいつも助けてもらった。

 中学での生徒会への立候補、越境しての高校受験。

 心無い者達に孤立させられたとき、陰湿な嫌がらせを受けていたとき……。


 思い返せば、どれほどこの曲に力をもらったことだろう。


 そして、私は今またこの曲に勇気を貰おうとしている。

 二月十四日、聖バレンタイン。

 チョコレートを媒介に想いを伝える日。


 私にとって二度目の、恋。

 実在の人物には初めての。

 

 ――あの人先輩に、告白をする。想いを告げる。


 ……叶うことがないのはわかっている。

 初めから負けの決まっている戦いだ。

 あの人の答えを聴くのが、正直怖い。

 でも、それでも私はこの想いを告げる。

 自分の心に素直であるために、気持ちに嘘をつかないために。

 叶わぬ恋に囚われたりしないため。

 そして、次への一歩を踏み出すことが出来るようになるため。

 ヒザをついても諦めず、必ず立ち上がった、あの銀色の巨人の勇姿に恥じないために。


 さぁ、決戦に向かおう。心のプレイヤーをONにして。

 ミュージックスタートッ、『Stand Up!』



「先輩、私、先輩のこと――」

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Stand Up! シンカー・ワン @sinker

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