第12話
俺は和人から送られてきたSNSのスクショに愕然とした。
(お前達、本当に分かってないんだな。これが証拠だ!)
そこには機能性発声障害と書かれた医師からの診断書がアップされていた。ただ、これだけでは今歌えない証拠にはならない。喉に異常が見当たらない機能性発声障害は、精神疾患の場合も多くメンタルケアによって改善する報告もたくさんある。
(これって当時、そうだったってことだろ!? 今は関係ないじゃねえかよ!)
(だよね! この当時歌えなくなってたからって、今だって歌えないことにはならないよ)
当然のことだが、SNSで反論が巻き起こっていた。
(分かってないな。これ当時じゃなくて今だぞ!)
えっ!? 診断結果の日付を見た俺は驚いた。診察日は一週間前だった。リラはYOZORAにより歌声を手に入れた今でも歌うことを諦めていないのだ。
それと同時に俺は背中に冷たいものが流れていくのを感じた。これは、いつ、誰がリークしたものなんだ!?
医師からの診断書が世の中に出てくることはない。個人情報保護の観点からもこれがSNSで拡散されてるのは、かなりヤバい。
(あり得ねえって、そもそもこんな診断書、手に入る訳ないだろ!)
(あっ、確かにそうだよね。こんなもの晒せる訳ないよね)
これに対しての書き込みは無かった。俺は慌てて和人に連絡する。
『和人! 情報ありがとうな。ちょっと調べてみるよ』
『ああ、誰がこんなことしてるか分からねえけどさ。リラにも聞いてみたほうがいいかもな』
『和人から連絡してくれないか?』
『何言ってるんだよ。それはリーダーの仕事、だろ』
『リーダーって俺、そんなんじゃないしよ』
『どっちにせよ、音弥がいなければ俺もリラもこんな活動できなかったんだ。お前がリーダーだよ。責任持って聞けよ』
『これから会おうと思うんだけど、和人も一緒できないか?』
『ごめん、これからバイトなんだ』
『そうか。なら仕方がない』
俺は和人の電話を終えるとすぐにリラの連絡先を押そうとして一瞬そこで固まった。突然、俺みたいな陰キャから電話が来たら、リラは引くかもな。俺みたいな陰キャからの電話なんて望んでないだろ。俺は一瞬躊躇したが、このSNSの内容が真実なのかどうか。リラにこのことをすぐに共有しないとダメなんじゃないか、と思い直しなけなしの勇気を振り絞って通話ボタンを押した。
発信音が鳴りだすと痛いくらいに心臓が鳴り響くのが分かる。数回コールをしたタイミングでリラが出た。
『あれ!? 音弥が電話してくるなんて珍しいね。どうしたの!?』
『ちょっと聞きたい事あるんだけど、これから会えない!?』
『う、うん。大丈夫だよ。制服着替えてからだけど、どこに行けばいい? 音弥のマンション!?』
流石に女の子と二人きりで自室はまずい。俺はリラの家の近場の喫茶店にしようと伝えると、分かったと言って電話が切られた。
そういや、焦ってて会う理由を説明してなかったことに今気づいて冷や汗が顔を伝った。どうしてリラは俺の呼び出しに理由も聞かずに来てくれたのだろう。
本来なら、どうしたの? とか、レッスンの打ち合わせ? とか聞いてくるものなのに。俺がデートをしたくて誘ったのならば、困るんじゃないのか!?
まあ、その可能性がないから、誘いに乗ったのだろうけどな。そう言う意味ではリラに変に信頼されてるのかもなしれない。
俺はリラの家近くの喫茶店の前まで来て、一瞬怯んでしまった。これって他人から見たらデートに見えないか!?
ただでさえ可愛いリラにとっては俺と一緒にいることさえ注目の的になるだろう。俺みたいな陰キャと二人きりでいるところを見られたら、きっとリラの価値が下がってしまうんじゃないか?
やっぱり会うのは明日にした方がいいよな。俺は慌ててラインを起動して、やっぱり明日に……、と書き込んだところで後ろから呼びかけられた。
「音弥、はやーいよ」
「へっ!?」
普段着のリラはすごく可愛くて、そして色っぽかった。高校の制服は他の女子生徒達と違い膝下までの長めのスカートを履いてるのに対して、今日の私服のスカートは明らかに短いピンクのフリルスカートだ。デニムのジャケットに合っていて、いかにもリラらしさがあるが、それにしても無防備すぎないか?
「お待たせ」
「いや、今来たところで、待ってないからね」
「ふうん、そうなんだ。でも、びっくりしたよ。音弥って結構大胆だね」
「へっ!?」
「だってさ。まだ、わたしたちって知り合ってからそんなに経ってないわけじゃない? 喫茶店に呼び出すなんてね」
なんか嬉しそうに見えるが、そんなわけはない。少なくとも俺は一度振られてるんだ。
「あっ、そうじゃなくてね。今日は呼び出したのは、これの真実が知りたかったんだよ」
俺は慌ててSNSを開いてスマホの画面を見せるとリラは驚いた表情をした。
「嘘、これってこの前診察に行った時の……だよ」
「立ち話もなんだから、喫茶店でその話聞かせてよ」
「う、うん……分かったよ」
心なしかリラは動揺しているように感じた。無理もない突然、診断書がSNSに上げられたら驚かない方が不思議だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます