第2話 回帰後初のダンジョン



 ◆◇◆◇◆◇



 過去へと回帰した翌日。

 俺は昔住んでいた家で一夜を明かした。

 未来で死んだ頃には別の場所に住んでおり、覚醒者になった頃に住んでいた家からは引っ越していた。

 住処を移してからそれなりに経っていたが、当時住んでいた場所はちゃんと覚えており、過去に回帰して早々に家無しになることは避けられた。



「実際に使うと忘れていたことも思い出すものだな」



 当時使っていたスマホの暗証番号を入力してロックを解除する。

 昨夜は帰宅後、精神的な疲れから早々に寝てしまったので、今からネットで現在の情報を集める。

 スマホの暗証番号と同様に、当時の情勢について思い出すためのキッカケを得るための情報収集だ。



「ふむ……そうか。現時点ではまだ攻略されていないのか」



 今いる自宅のアパートから少し離れた場所に出現している〈ダンジョン〉が、まだ未攻略であるという情報がネットに載っていた。

 ダンジョンとは様々なモンスターやお宝を内包した黒い塔型建造物だ。

 誰が創造したかも材質も不明の代物だが、このダンジョン内で得られる資源のおかげで、異次元から侵攻してくるモンスターと戦うことが出来ていた。


 そんなダンジョンにはモンスターだけでなくお宝もあるわけだが、そのお宝の中でも特殊な力を持つアイテムを〈マジックアイテム〉と言う。

 そのマジックアイテムの中でも一際特別な力を持つ唯一無二のマジックアイテムが、〈アーティファクト〉と呼ばれるアイテムだ。

 アーティファクトを獲得するとダンジョンは消滅し、以降はダンジョンの資源を得ることが出来なくなる。

 だが、強力なアーティファクトを欲する者達の欲によって、ダンジョンが出現次第その核であるアーティファクトを獲得しダンジョンを攻略するのは普通のことだった。



「ダンジョンごとにアーティファクトの入手法は異なるが、基本的にはダンジョン内のボスモンスターを倒せば出現する……基本的にはな」



 脳内にある未来での情報と、ネット上で探した今の段階で明らかになっている情報を比較しつつ考えを纏める。

 内部のモンスターの強さのわりには、未だに攻略されていないダンジョンであることから、このダンジョンはやはり特殊ダンジョンか。

 その特殊ダンジョンの中でも、このダンジョンで得られたアーティファクトは……アレか。



「未来において重要なアーティファクトをまだ誰も手に入れていない……チャンスだな」



 戦闘系のアーティファクトではないが、その有用性は未来で実証されている。

 俺1人で有効活用できる代物ではないが、クソったれな支配者の1人が未来で人々の上に君臨するのを防ぐことができる。

 そうと決まれば、善は急げと言うし、さっそく件のダンジョンへと向かうことにした。



 ◆◇◆◇◆◇



 目的のダンジョン前に到着すると、多くの人々が屯っていた。

 初探索権を購入したギルドの独占期間が終わり、ダンジョンの探索が自由化されたのだから当然か。

 ま、おかげで有象無象に紛れて侵入できるのだから、俺にとっては都合が良い状況には違いない。

 ダンジョンに来る前に役所で覚醒者として登録し、発行してもらった覚醒者用IDをダンジョン入り口横の受付所で提示して入場する。



「ピラミッド感のある内装のダンジョンだな」



 実際にこのダンジョンに入るのは初めてだが、此処については前世で調べたことがあるため、そこまで初めてという感じはしない。

 ダンジョンに現れるミイラのようなアンデッド系モンスターは、覚醒して間もない俺よりも格上だが、前世ではもっと強敵と戦ったことがある。

 この程度のモンスターなら武器さえあれば問題なく対処可能だ。



○八咫烏の三翅刀

 等級:遺物レリック級。

 とあるダンジョンで産出された短刀型マジックアイテム。

 三つで一つの短刀であり、デザインの異なる他の二振りが傍に揃っていると性能が上昇する。

・【太陽の一刃】……陽光属性の力を刀身に宿す。

・【二損一存】……三つある同アイテムのうち一つでも無事なら、劣化・破損しても半日で自動復元される。魔力消費により即座に復元が可能。



 チンピラ三人衆から獲得した三振りの短刀は三つで一つのマジックアイテムだった。

 回帰後初のアンデッド系モンスターのダンジョンには、まさにピッタリの能力を持つマジックアイテムだと言えるだろう。

 最悪の場合、少ない魔力で魔力刃を作って戦う必要があったが、この武器ならば殆ど魔力を使うことなく雑魚モンスターを倒すことができる。



「アァー」


「シッ!」



 回廊で襲い掛かってきたミイラっぽいモンスターを両手それぞれに持った三翅刀で斬り捨てる。

 陽光属性は光属性の一種であり、その属性魔力はアンデッド系モンスターに対して効果抜群だ。

 他の同ランク武器以上に容易くアンデッドを斬り裂けるため、無駄に体力を消耗することもない。



「さて、確かこの辺に……あったあった」



 とある部屋に入ると、そこには異臭を発する壺が並んでいた。

 聞いてはいたが、マジで臭いな。

 壁際に並ぶ壺の中から適当に1つ確保すると、その壺を持って少し離れた場所にある別の部屋へと向かう。

 行き先の部屋にあった小さな祭壇に壺を設置し、祭壇の前面にある白い宝玉に俺の血を一滴垂らした。

 すると、宝玉が赤く輝き出し、その宝玉から発せられた赤い光が壺全体を明るく照らし出す。



「おお。本当に変化するんだな……」



 異臭を発する壺が、宝玉の赤い光を受けたことにより、手のひらサイズの青い光を放つ宝玉へと変化した。

 これがこのダンジョンのアーティファクト〈月神の賢眼〉だ。

 本来ならばダンジョン内の壁面にある暗号を解くことで判明するギミックだが、未来の情報を知る俺には関係ないことだ。

 空中に浮かんでいる月神の賢眼を手に取ると、ダンジョンが地響きを立て出した。

 ダンジョンの核であるアーティファクトを獲得したことで、ダンジョンが消滅しようとしているのだ。

 このまま待っていれば安全にダンジョンの外に転移させられるが、ここはアーティファクトを獲得したと疑われないように、ダンジョン初心者らしく慌てながら徒歩で脱出するとしようか。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る